はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

世界を感じる近代建築

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先週末は、『日常の絶景』刊行記念トークイベントをするために、学芸出版社がある京都に行ってきた。その際に、倉方俊輔さんによる『京都 近現代建築ものがたり』に掲載されている建築物をいくつか見て回った。背後にあるストーリーを踏まえた建築体験は、予想を超えてとても充実したものになった。

たとえば、伊藤忠太による本願寺伝道院。倉方さんの本で「西洋建築の枠に収まらないデザイン」と表現されているように、洋風、インド風、アジア風、イスラム風、和風など、さまざまテイストが絶妙に折衷されている。しかもそれが、西本願寺というガチ京都の門前町にあるのだから、驚かざるを得ない。そのカオスにも似たスタイルの豊かさに、思わず頬が緩んでしまった。

これまで伊藤忠太の建築にはあまり興味を抱かずにいた。正直に言えば、若い頃は溢れ出る違和感を毛嫌いすらしていたように思う。さらに、つい最近まで現代建築には興味があっても、近代建築をわかろうとしていなかったと言ってもいいかもしれない。このような自分が培った独自基準で好き嫌いを設定し、その延長で良否を判定しようとする短絡的な姿勢は、自分の視野や思考を狭めるだけであろう。

今回の体験を落ち着いて振り返ってみると、もっと以前にも同じような感情を抱いたことを思い出した。それは、バルセロナでガウディの建築を体験したときだ。あのときは自分の価値観が根底からひっくり返るような激震が走ったわけだが、今回の京都ツアーもそれに近い体験だった気がする。自分の考えなど固定化せず、フワフワとゆらぎながら、どんどん更新していきたいね。

 

私的ドボク大賞2021

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今年の個人的な締めくくりは、やはり「私的ドボク大賞」で。13回目となるこの賞は、僕がその年に体験したドボク的ネタを振り返り、僕が感激したものを自薦して、僕が選考・表彰するという、誰の共感も求めない自作自演のアワードだ。

昨年に続いてコロナ禍の影響をモロに受け、旅行や出張の機会が極端に少なくなったことに伴いノミネート候補数は限定されているが、続けることに意味があると信じて実施する。さっそく、ノミネートされた作品を紹介しよう。数こそ少ないが、個人的な感激クオリティは例年通りだ。

 

[1:虎渓用水広場]

多治見駅前にある、かつての農業用水を取り込んだ公園。高低差と緑陰と水音が生み出す居心地の良さに、のんびり長居をするばかりか、青空の下でうっかり長時間のリモート会議に参加してしまった。

[2:気仙沼内湾地区防潮堤]

津波被災地における防潮堤のありようのひとつを示した事例。現地のキーパーソンにもお話を伺うことができ、見ただけではなかなかわからない背後のストーリーを知ったことも感激を高める要因となった。

[3:高田松原津波復興祈念公園]

この地には何度か行っているが、公園が整備されてからはじめて訪問し、いろんな感情が揺さぶられる空間体験を得た。極めて象徴的な空間構成でありながら、訪問者のそれぞれの想いを受け止める大きな器であるように感じた。

[4:首都圏外郭放水路]

たびたび訪れているので新たな記事はアップはしなかったが、今年も地下神殿に参拝してきた。某プロジェクトの動画の撮影に同行する形だったので、じっくりたっぷりと超絶空間を堪能することができ、大満足の体験となった。

[5:日常の絶景 知ってる街の、知らない見方]

年末に新たな本を出版した。昨年末から執筆に取り組んではいたが、集中して書いたのは今年の夏。どこにも行かず、ずっと自室に引きこもっていた。良くも悪くも、コロナ禍の影響は甚大だった。ブログやTwitterに書き散らかしていたことを客観的に振り返ることができので、とても大きな収穫になった気がする。

 

さて、以上の5つのノミネート作品から、グランプリを選出するよ…。

 ……。

 ………。

 …………。

じゃじゃーん、今年の私的ドボク大賞は『高田松原津波復興祈念公園』に決定だっ!!

ランドスケープや建築のクオリティの高さはもちろんだが、防潮堤という超ハードドボクを再解釈して取り込んだ空間の強度には、本当にしびれた。街のかさ上げの途中経過やその風景の変化を目撃していたことも受賞の背景にはあるだろう。この地は継続的に訪れようと思っている。

 

ということで、今年は書籍を執筆するという全力でのアウトプットがあったものの、インプットの総量が圧倒的に少ないという、極めてアンバランスな年だったが、なんとか無事に終えることができそうだ。

外出頻度の低下に伴って更新頻度もがた落ちになっているこのブログを飽きずにご覧くださっているみなさま、どうもありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。

鎮魂の軸線

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10月に気仙沼へ取材に行った際、どうしても行きたかった陸前高田の高田松原津波復興祈念公園にも足を伸ばした。最初の訪問時は高台造成のためのベルトコンベアが張り巡らされており、前回は施設のオープン直前だったので、ようやく落ち着いた状態を体験しに行ったわけだ。

低い建物の向こう側にある広大な空間に、力強い軸線によって導入される。こうした軸線は強烈な印象をもたらすことはわかっていたつもりだが、この景観体験は想像を超えていた。アイストップは、水平に広がる巨大な防潮堤。その先にあるはず太平洋は、この時点では全く見えない。ご神体は人為の防潮堤なのか、自然の海なのか。人々を海から切り離すのか、海と再び接続するのか。なかなか言葉にならないが、このシンプルで象徴的な構成がズシンと胸に響く。

広々とした芝生の広場を抜け、水面に架かる橋を渡る。防潮堤を上って、海を眺める。振り返って、陸前高田を囲む山々を見渡す。防潮堤の上を歩き、被災した震災遺構を眺める。こうした一連の体験が、訪問者それぞれの「祈り」に結びついていく。

何度でも行きたい、行かなければならない場所だった。