はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

アンサー展示

大阪で開催された『ヨーロッパのドボクを見てきた展』を見てきた。写真作家の水池葉子さんによる拙著『ヨーロッパのドボクを見に行こう』へのアンサーソングならぬアンサー展示だ。自分が出した本が他者の創作の刺激となり、実際に現地を訪れて写真を撮るという行為に至り、それが展覧会という形で実を結んだというわけだ。その事実に驚き、よろこび、感謝した。このときめきは、昨年の『日常の絶景』ドラマ化と同質のものだね。心から本を出して良かったなあと感じ入った。

展示は本と同様に、国別に分けてレイアウトや額の色に変化を持たせていた。つまり、景観に立ち上る文化が国ごとに異なるというコンセプトを、韻を踏むように踏襲してくださっていたのだ。そして、被写体の多くは僕の本に載っているもの。つまり僕自身もそこに行って写真を撮っている。このため、懐かしさを存分に味わうことができたとともに、自分の写真との違いを楽しむこともできた。

僕の写真はその対象物がどんなものであるかを記録することが目的であることに対して、水池さんの写真は作品として鑑賞者に何らかのメッセージを届けることが目的だ。それを完遂するために、実体のあるプリントを額装して壁面に掲げ、空間にレイアウトしているわけだ。このことは、写真に対する向き合い方を模索中の僕にとって、いろいろと腑に落ちるものであり、とても大きな刺激になった。

別のプロジェクトの写真集をいくつもじっくり拝見し、それらの制作に関するお話しを伺うこともできた。さらに、来場された方々ともお話しをする機会もいただけた。そして高揚感の中で、僕も写真の展示や写真集の制作にチャレンジしたくなった。これは、今後なにかに展開していくものなのだろうか。

水池さん、この度はとても魅力的な写真作品で構成されたアンサー展示を開催してくださり、どうもありがとうございました。今年の9月に発売となる写真集『のら』を楽しみにしています。

イタリア広場の啓示

平日の午後、仕事をするふりをして上野の東京都美術館で開催されている「デ・キリコ展」に行ってきた。それなりに来場者は多かったが、鑑賞時にプレッシャーを感じるほどではなかった。全作品をしっかり眺め、全キャプションをゆっくり読み、オーディオガイドをじっくり聞いた。これほどたっぷり時間かけて美術鑑賞をしたのは、久しぶりかもしれない。

これが、自分のルーツのひとつに触れられた素晴らしい体験だった。自分が子どもの頃、おそらく美術の教科書だったと思うが、デ・キリコの『不安を与えるミューズたち』に心を鷲掴みにされたことを、本物の作品の前で思い出したのだ。かつて受けた衝撃や懐かしさが入り乱れながら。違和感満載のパース、寂寥感のある広い空間、やたらと長い影、濃厚でポップな色彩、顔のパーツがないのに憂いを感じるマヌカンなど、夢の世界のような非現実感に、あらためて感じ入った。

これまでデ・キリコについて詳しく知る機会をつくってこなかったことは大いに反省するとしても、今回の展覧会でいろいろ繋がった。長い作家生活における変容や、それぞれの時代背景をしっかり伝えてくれる展示だった。形而上絵画の発祥、シュルレアリズムとの関係、伝統や秩序への回帰、セルフカバーの繰り返し、戦争との関係などが示され、それらが自分の知識と結びついていく感覚がとても楽しかった。ここ数ヶ月の間に、古代ギリシャやルネサンス美術の専門家の方々からお話をじっくり伺っていたことも、大いに役立った。さらに、このところ考えているものの見方や見え方について、大きなヒントを得ることができたな。

見慣れているはずのフィレンツェの広場が、初めて見る景色であるかのような感覚に襲われたことが形而上絵画の啓示になったとのことだ。この心理現象は「既視感=デジャヴュ」の反対の「未視感=ジャメヴュ」とか、全体性が保てなくなる「ゲシュタルト崩壊」なのかもしれない。その感覚は、トリノの広場で頻繁に起こるらしいので、過去の写真を眺め直してみた。言われてみるとそんな気分になってきた。

そうそう、デ・キリコって彫刻も制作していたんだね。あのマヌカンたちがしっかり立体物になっていて驚いたな。歪んだパースがうっすら背後に見えてくる、すごい造形作品だったよ。ちなみに「デ・キリコ展」は、8月29日まで。

新火力発電所

先日、わが家の車を12年目の定期点検に出した。その時にお借りした代車が、なんと赤いFIAT500だった。あまりのかわいらしさに、猛烈にドライブに行きたくなった。仕事がたんまりあったにもかかわらず。どこに行こうかと思案したところ、かつて頻繁に京葉コンビナートを見に行っていたことを思い出し、丸善石油化学千葉工場を近くから眺めることができる養老川臨海公園に行くことにした。おそらく10年以上はご無沙汰していたのだろう、ずいぶんと設備や敷地の使い方が更新されており、とても新鮮な気分で迫力のある石油化学プラントを鑑賞することができた。工場の景観は、やっぱりいいねえ。

養老川の対岸に目をやると、キラキラした煙突が3本立っているではないか。記憶にはない、魅力的な眺めだ。風によるカルマン渦を抑制して振動を軽減するらせん状のフィンが取り付けられ、頂部が鮮やかな色に塗られている。手前にある白いタンクの階段が、そのらせんに同調しているのも楽しい。建屋の壁面が斜めになっているのか、そこに落ちる影まで繰り返しの要素になっている。ここはたしか、高い煙突を持つ五井火力発電所だったはずだが。

帰宅後に調べてみると、かつての施設は老朽化により2016年に停止され、現在は最新鋭の設備3機に更新している最中とのこと。今年から来年にかけて順次運転が開始されるようだ。資料を見ても僕の知識では理解できなかったが、どうやら環境負荷の低減、大気汚染物質排出の低減、出力の高効率化や安定化が実現されるのだろう。エネルギー資源が極端に少ない日本において、LNG火力発電は不可欠。最新の設備によって、安価で安全でクリーンに近い電力供給の実現を、心から願うばかり。