はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

音楽空間の造形

中学校と高校で吹奏楽部に所属していた千葉県民の僕は、毎年夏になると必ず千葉県文化会館を訪れていた。吹奏楽コンクールの県大会がこのホールで開催されるためだ。数年前、演奏会を聴くために約30年ぶりに入り、その変わらぬ空間の質の高さに感激するとともに、高低差のある構成にワクワクしていた記憶が蘇ってきた。しかし、外観の記憶はほとんど戻ってこなかった。象徴的な眺望点は用意されていないのだろう。

後日、すぐ近くにあるコンクリート造天守閣に登ってみた。情報が渋滞してしまうが、これは亥鼻城趾につくられた千葉城と呼ばれる千葉市立郷土博物館だ。ともあれ最上階から千葉県文化会館を見下ろすと、スターウォーズに出てくる帝国軍の戦艦のように、三角形の要素が含まれたかっこいい造形であることがわかった。中央にあるピラミッド状の塔は中央ロビーの採光部で、奥の傾斜屋根は舞台に向かって広がる大ホールだ。ようやく中と外が認識できた。あらためてお世話になった素晴らしい建築物に頭を下げた。

1967年に完成したこのホールは、大髙正人の設計。千葉県民は千葉県立中央図書館や千葉県立美術館など、すっかりお世話になっている。昨年の夏の東北旅行の際は、お礼のつもりで氏の生誕地である福島県三春町の建築群を詣でてきたのだけど、その話題をブログに書き忘れていたことに、いま気付いた。

千葉県文化会館は現在大規模改修工事中で、今年の夏に完了するらしい。どんな姿になるのか楽しみだね。また、すぐ近くにある千葉県立中央図書館は別の場所に移転するとのことだが、建物自体はどうするのかな。取り壊すという話を聞いた気がするのだが。

北欧の埠頭の橋

フィンランドのヘルシンキとエストニアのタリンは、2時間強のフェリーで結ばれている。ヘルシンキの玄関口となるウエストターミナル2は、ガラスと木材がふんだんに使われた北欧らしさに溢れる素敵な建物だ。それ以上に、トラムから見えた近くの真新しい橋が気になって仕方なかったので、重たいスーツケースを引きずりながら桁下まで行ってきた。

Atlantinsiltaというこの橋は、橋長106m、幅員26.6mで、2021年につくられたようだ。コンクリートの薄い桁(中空床版か?)と鋼製のV字橋脚(ステンレス製か?)が剛結する、とてもスレンダーなラーメン橋。歩車道に加えてトラムも通っている。桁断面、桁と橋台とのおさまり、高欄や照明などの橋面工、排水管の処理などは極めてシンプル。それだけに、独特な橋脚の造形が引き立っている。どこをどう眺めても現代的なかっこよさが滲み出ており、北欧のデザイン水準の高さにあらためて感激した。

港湾や空港は外に開かれた場所ゆえに、デザイン面での見どころに溢れていることが多い。そんなときは、テンションが上がりっぱなしになっちゃうのだけれど、必然的に荷物が重くなりがちってのが困りもんだよね。この橋に出会ったときも、対岸に行くのをあきらめちゃったもんなあ。

トンネルの後ろ姿

千葉都市モノレールの千葉公園駅を降りて、ふと千葉市街地方向に目をやると、いわく付きの祠のような妖しい雰囲気を漂わせた緑陰に気付く。目をこらして見ると、それが馬蹄形断面を持つ筒状のコンクリート構造物であることがわかり、不可解さがますます強化される。謎に導かれるように反対側に回り込むと、ようやくその正体がわかる。

これは、旧陸軍鉄道第一聯隊が構築した「演習用トンネル」の坑口。1931(昭和6)年につくられたようだ。トンネルを構築する必要性が全く感ない地形に立地し、しかも地中から見たトンネルの様子という認識に困る眺めだけに、ものすごい違和感を放っているわけだ。なお、千葉公園内には演習用のコンクリート橋脚も残されている。これらの構造物を用いて、実際にどんな演習が行われていたのだろうか。気になるね。

何年か前までは公園緑地事務所の敷地内だったので、近寄りにくい状況だった。それが千葉公園の再整備に伴って完全なオープンスペースに変貌し、見通しが確保されるようになったので、突然その存在が顕在化した。とても素敵なシークエンスをもたらしてくれる、とてもありがたい整備だね。