はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

橋をデザインする

橋の設計に携わる若い読者を想定した「橋をデザインする」という本が出版された。橋の設計を多角的に捉えながら「コンセプチュアルデザイン」という視座を獲得していただくために、さまざまな角度から実際の橋の設計事例をたくさん取り上げて、その設計思想を論じたオムニバス形式の本だ。錚々たる著者の中に、僕もこっそり紛れ込ませていただいている。

この本のきっかけは、2019年3月5日に40歳の若さで亡くなった増渕基さんへの追悼の想いだ。将来を嘱望していた彼への思いを共有している8人が集まり、彼が探求していた「橋の構造芸術」を世に伝えたいという気持ちから本書をまとめた。彼は生前「日本には優れた橋があるのに、その橋の設計思想について解説した本が少ない」と語っていたことが、大きな原動力となった。出版に至るまでにいろいろと紆余曲折があって時期が遅くなってしまったけど、日の目を見ることができて本当にありがたい。

なお、ささやかではあるけれど、著者達の印税は全てご遺族の育英基金とさせていただきます。極めてニッチな本だとは思うけど、ご興味のある方はぜひ。

地獄と極楽

彼方と此方の境界についてぼんやり考えていたら、数年前の下北出張の際に訪れた霊場恐山のことを思い出した。かなりインパクトのある景観体験だったのに、ブログには残していなかったんだなあ。

恐山固有の景観は、火山活動によってつくり出されてきた。あたりは硫黄の匂いに包まれており、恐山菩提寺の境内には温泉もあり、まさに五感で地球の活動を感じられる。境内の奥に広がるゴツゴツした岩の隙間から硫気ガスが噴き出す光景は、地獄のイメージがストレートに想起される。その先にあるカルデラ湖の宇曽利山湖は、白い砂浜とエメラルドグリーンの湖面が織りなす極楽のように幻想的な眺め。湛えられた強酸性の湖水に生き物はいないだろうと思っていたら、環境に適応したウグイが生息しているという。

地獄と極楽という極端な世界を同時に感じられる恐山は、死者をしのぶ祈りの地として昔から人々の信仰の対象になってきた。そのことが大いにうなずける、この世とあの世の境界の景観だね。

海岸のクローン兵

日本は海に囲まれた島国である。しかも、結構ひょろ長い。このため、国土の外周全体が津波、高潮、波浪といったジオスケールの自然現象に晒され、海岸線の浸食、砂浜の消失、交通の分断、家屋の流失、人命の喪失などの被害が古来より延々と繰り返されている。ゆえに、我々の日常を維持するには、膨大な延長の海岸の防護が不可欠なのだ。

そのために用意されたのが、コンクリートでつくられた消波ブロックと呼ばれるクローン兵たちだ。彼らを集合体として配備し、陸側には防波堤や防潮堤、沖合には離岸堤や人工リーフなどを構築することが多い。港湾のエプロンで整然と隊列をなして出撃の準備をしている光景に出くわすことがあるが、いったいどこの海岸を守りに行くのだろうか。