はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

2020-01-01から1年間の記事一覧

私的ドボク大賞2020

多くの人と同様、今年は僕にとっても極めて特殊だった。自他ともに雰囲気で取り繕ってきた「常識」のようなものがボロボロと崩れ去っていく様子を目の当たりにし、さまざまな面で本質的な見直しを迫られるようになった気がする。刷新できる環境はさっさと変…

体験で引き寄せる歴史

最近、あらためて「近代デザイン」の歴史を時間軸に沿ってざっくり俯瞰する機会を得た。というか、そうせざるを得なくなった。その過程の中で、昨年末に訪れたイギリスでの体験をしばしば振り返っていた。なんせこの国は、近代デザインの源流である産業革命…

社会の積層

東京は「レイヤード・シティ」と表現してもいいんじゃないかとずいぶん前から思い込んでいるわけだが、KITTEの屋上庭園にふらりと立ち寄った際にその思いを強く抱いた。ちょうど、東京の運河クルーズでの体験と同じような印象と言えばいいだろうか。スケール…

よいデザイン

先月88歳で死去したテレンス・コンラン卿が設立し、2016年に現在の場所に移転したロンドンのデザインミュージアム。その常設展「Designer Maker User」の入口に、「CROWDSOURCED WALL」という壁面がある。そこには、さまざまなジャンルを跨ぐ小物が、所狭し…

配達が切り拓く世界

スイスアルプスの峠を越える送電線の写真を、あれこれ編集してみた。「デス・ストランディング」というゲームの感動的で示唆的な仮想世界を、少しでも自分の実体験に近づけようとして。この送電線を見たときにも、隔てられた世界が「つながっている」ことに…

上昇と下降

僕は子どもの頃にエッシャーの絵にのめり込んでいた。おそらくエッシャー展に連れて行ってもらったのだろう、リトグラフのポストカードを何枚か手に入れ、額に入れて自室にずっと飾っていた。ありがたいことに実家で保管してくれていたその額を、数年前に受…

山頂の地下空間

今治公会堂の緞帳に描かれている総延長が4kmを越える3連吊橋の来島海峡大橋は、亀老山展望台から眺めたものだ。この眺望も素晴らしいが、展望台自体もすごかった。隈研吾による設計で、1994年につくられたという。来島海峡大橋の完成が1999年だから、ここ…

自慢の建物

仕事を絡めた一週間の壮大な周遊旅行を、愛媛の松山を起点として予定していたのだが、台風10号の影響で大幅に計画変更せざるを得なくなった。飛行機のチケットは変更不可だったし、あれこれ再検討する心のゆとりもなかったため、同じ都市に約一週間も滞在す…

自然現象と人間活動の交錯点

東日本大震災の発災翌日である2011年3月12日の朝、長野県北部地震によって写真右上の斜面が崩壊し、大量の土砂が積雪を巻き込みながら、写真左側にある国道353号を飲み込んだ。その緊急対策としてつくられたのが、鋼製セル工法による主堤体を有するこのトヤ…

今年の夏

なぜか、8月が終わりかけている。毎日たっぷり暑さを感じてはいるものの、夏の実感はまるでない。しばらく休日らしい休日を過ごしていないことも大きな要因だろうが、ほとんど外に出ない生活によって、インプットとアウトプットのバランスがくずれているこ…

街角の間にあるもの

この夏、ついに三土たつおさんの編著『街角図鑑』の続編が登場する。その名も『街角図鑑 街と境界編』だ。4年前に登場した前作は、新たな街の見方がてんこ盛りで、謎の興奮が凝縮された本だった。本作ではそれがしっかり継続されているだけでなく、スケール…

名塔に大空間を与えたEV

あらためて写真を眺めても、エッフェル塔はすごいな。ここまで多くの人に感動を与えられる構造物も珍しいんじゃないか。誕生当時のディスられっぷりは凄まじかったようだが。 ひとつひとつの部材が極めて注意深く構成された肌理の細かさにも驚愕するけど、な…

斜行事例

ある方とのやりとりの中で「社交辞令」が話題となった。しかし、あっという間に「斜行事例」の話題にすり替わり、大いに盛り上がった。いや、一方的に僕だけな気もするが。鉛直でも水平でもなく斜めに移動するってことは、特別な事情を乗り越えるための解決…

毎日が遊園地

3月に広島に出張した際に、ずいぶん前から「いつか見に行くリスト」に入れていた「スカイレール」を、ようやく体験できた。噂に違わず、血湧き肉躍る唯一無二の新交通システムだった。なにしろ懸垂式モノレールなのかロープウェイなのかゴンドラなのかケーブ…

不当な扱い

今日は駐車場に関する文章を書いていたのだが、すっかり迷走してしまった。駐車場って現代の都市において極めて重要な役割を担っているのに、不当に低く扱われているんじゃないかと憤慨しはじめたのだ。 駅とか空港などの交通モードが切り替わる場所って、そ…

水没する美ダム

1週間ほど前、衝撃的な事実を知った。なんと、スイスのグリムゼル峠近くにある水力発電用の重力式アーチのグリムゼルダム(Spitallamm Dam)の直下流に、23m高い新たなダムが建設されはじめたという。つまり、1932(昭和7)年に完成した階段状のかっこいい…

大型連休の過ごし方

「STAY HOME週間」はなぜ「STAY HOME WEEK」や「自宅待機週間」ではないのだろうという疑問はさておき、この大型連休を家で過ごすためになにをするかを考えることは、たいへん重要なテーマだ。まあ僕の場合はこの週間に、慣れないリモート講義に使う動画の制…

特殊歩道

シュッとした白い二連アーチを持つ広島の太田川大橋は、その自転車歩行者道がものすごく特徴的で、これを渡ることによって橋梁景観の体験が豊かになる印象を持った。なにしろそのシークエンスがとても印象的なので。 写真奥の左岸側は、下流側の車道よりもわ…

世界の見方の拡張

文化は人と人との接触から生まれる。ところが現在、その関係を断つことを迫られ、他者に対して疑心暗鬼となり、得も言われぬ重苦しい空気があたりを覆っている。生命や経済の危機に際しては、文化という価値などはじめからなかったような雰囲気すらある。し…

大地の穴

人類は穴を掘り続けてきた。断熱性や保温性のある住処として、生活で出た廃棄物を埋める場所として、死者を弔い大地に還す場所として。まだ科学と信仰が一体だった頃、莫大な利益や強力な軍事力につながる錬金術に魅せられ、採掘の技術や規模は拡大していっ…

アーチで補剛

2014年に竣工した広島の太田川大橋は、僕の中にある単弦アーチ橋のスタンダードなイメージからかっこいい方向にシフトしているので、ずっと気になっていた。それは、わずかに低く見えるアーチライズ、透過性があって軽快な印象のアーチリブ、下部工と一体に…

そこら辺の絶景

新型コロナウイルスの影響で引きこもっている週末、なんとなく気持ちが前向きにならない。何冊も持ち帰った書籍を読もうとしても、数ページで集中力が切れてしまい、前に進めない。映画を鑑賞しようかと思ったが、そもそも選ぶ段階で挫折してしまった。こん…

時代をつくった橋

世界中の国がその往来を閉ざしているいま、ほんの3ヶ月前にイギリスに行ったことが、はるか昔の夢のように思えてくる。でも確かにブルネルの偉業を見てきたんだよな。 そのブルネルを含むイギリスの土木技術者は基本的に経験主義的な解き方をしており、その…

今が旬

もう10年近く前になるが、オランダ滞在時に有名な観光名所が改装中という事態に幾度となく見舞われた。それを繰り返すうちに、足場や養生シートで覆われた名所になんとなく反応するようになり、気がつくと写真で記録するようになっていた。 そんなこともあっ…

9年後の世界

2011(平成23)年3月11日午後2時46分、三陸沖で発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震によって、巨大津波や原発事故などを含む信じがたい規模の大災害が発生した。その被災に対して多くの人々のさまざまな努力が重ねられているが、9年を経た現在…

若手による設計

エイボン川の渓谷を跨いでブリストルの街を眼下に眺めるクリフトン吊橋は、156年前の1864年に完成した現役の車道橋。本当にすごいよねえ、僕も大興奮で徒歩と車の両方で渡ったよ。設計者はイザムバード・キングダム・ブルネル(Isambard Kingdom Brunel、180…

ブロックノイズ的立体構成

ダムの堤体が地山に接続する箇所は「フーチング」と呼ばれており、その様子は千差万別である。ダムの見どころはたくさんあるけれど、個人的には強く惹かれる箇所だ。覆土や緑化によってその存在を上手に隠しているものもあれば、全く無頓着で生々しいコンク…

芝浜高の立地

今年からはじまった日曜深夜のNHKのアニメーション作品「映像研には手を出すな!」に、すっかり夢中になっている。たまたま第2回の後半を観ていきなりググッと引き込まれ、これは観なきゃダメなやつだと確信した。毎回の放映で感動し、何度も録画を見直し、Y…

表現された機能

北上川の河口近くに、皿貝川への逆流と塩水の流入を防ぐ月浜第一水門がある。2006年に改築された姿は、しびれるほどにシャープで潔い。基本的に水平垂直の強烈な直線で構成されていて、わずかに現れる斜めのラインが効いている。 これって土木構造物にありが…

喫煙祭壇

昨年の夏、山口へ出張した際に街をうろついていたら、たまたまブルータルな雰囲気の建物の脇を通った。よく見てみると、山口市民会館と書かれている。回り込んでみると特徴的な階段が目に止まり、誘われるように登った。そのアプローチの先にあったのが、上…