はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

オランダの先制パンチ


オランダに来て最初の夜はこちらにも書いたように、緊急避難的にスキポール空港にあるホテルに泊まった。ぐったり疲れた身に、このホテルはかなり刺激的だった。そのことを書き忘れていたので、今更ながらメモを取っておこう。
スキポール空港のインフォメーションでホテルの場所を教えてもらい、重たいスーツケースを引きずってやっとの思いでホテルの前まで到着したのだが、えっ?ここなの?といきなり面食らった。近未来SF的なエントランス空間が、真っ赤な照明で満たされているのだ。
不安な面持ちで建物の中に入ると、斜めに配置された6台のタッチパネル液晶ディスプレイが正面に。フロントはどこ?と見渡してみても、それらしきカウンターはない。呆然としていると、若い男性がホテルマンらしからぬ雰囲気でにこやかに声をかけてきて、このパネルを操作しろと言う。ああこれでチェックインするのかとようやく理解し、オランダ流合理主義の初体験だと割り切って、諸手続きをなんとかこなした。
グッジョブと言いながら親指を立てたその男性に見送られ、エレベーターで客室階へ行き、長い廊下に出た。そこは真っ赤なカーペットと真っ白な壁面からなる、完全に左右対象な空間。消失点に目をやると、人影が。えっ?と思いつつ目をこらして見ると、シュールな人物画が壁に描かれていた。ダッチデザインのキッチュ面にすっかりびびりながらようやく部屋の前まで来て、ドアを開けた。
えっ?ひょっとしてここはラブホテル?と一瞬ひるんだ。白く長い直方体の空間に、ガラスの円筒が色のついた間接照明で浮かび上がっている。どうやらこの透明な円筒はトイレとシャワーのようだ。その奥には部屋の幅いっぱいのベッドがある。そうですか、この妙にモダンな空間でくつろげってことですか、それがオランダ流ってことですか。
とりあえずトイレブースに入って便座に座ってみたものの、まったく落ち着かなかった。次に意を決してシャワーブースに入り、おそるおそるノブを操作してみると天井からお湯が降ってきて、透明だったガラスが湯気で曇った。その後、ほかに居場所がないのでベッドに転がり込むと、なかなかよいクッションで迎えてくれ、その先の窓からは駐機中の飛行機が見えた。
結局、このホテルからはかなり大きなインパクトを受けたわけだが、居心地が悪かったかというとそんなことはない。むしろ良かったので、また泊まりたいと思っている。部屋を大胆にモジュール化していたり、随所に強烈な色彩を使っていたり、いわゆるデザイナーズ家具をふんだんに配置していたり、かなり自由にいろいろなことをやってるわりに、それらが程よくまとまっていて好印象につながっている。共用スペースやパソコンブースやバーカウンターも面白いよ。ホームページには写真がたくさん載っているので、参照していただきたい。スキポール空港を利用する際は、随所にオランダを実感できるこのホテルに宿泊してみてはいかがかしら。