はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

パイソン雑感


「Borneo-Sporenburg Bridges」という両岸の埠頭が入ったまともな名前がつけられているこのまともじゃない橋は、「The Python Bridge」というニックネームも持っている。なるほど、巨大なニシキヘビが僕らを威嚇している姿に見えるね。
この橋を渡ってみるとよくわかるけど、歩道橋としての性能は本当にひどい。有機的なカーブに合わせてステップが不連続になっているので歩行のリズムが全く取れないし、スリップ防止プレートが目立って段鼻がものすごく見づらいし、踏面は若干下方に傾斜していて恐怖感を伴うし。橋としての利用面のデザインが全くなされていないように感じる。
では、この橋の存在意義はいったい何なのか。それを理解しようとするなら、橋単体だけを見ていてもダメなようだ。埠頭の再開発の全貌を俯瞰してみると少しわかってくる。
この橋を設計したのはWest8というランドスケープを得意とする設計集団。この再開発地区全体のマスタープランも彼らの手による。長屋群のデザインコードの設定とかとても面白いのだが、これはまた別の話。再開発地区にあるのは、かなりボリュームのある集合住宅が2棟、各区画でデザインの異なる3階建ての長屋シリーズ多数、オープンスペース、水辺のアクティビティ、そして2つの歩道橋。彼らはこれらを変数とした複雑な問いを設定し、ランドスケープのアプローチでがらがらポンと大胆に答えを出した。
つまりここでWest8がなにをしたかったかというと、埠頭の広大な人工空間における新たな秩序を創出することだったのだと思う。だから空間のバランスが保たれるだけの力強いシンボリックなオブジェを必要とした。ただのオブジェというのもなんだから、歩道橋の機能もついでにつけたのだ。埠頭に対して斜めに切られたオープンスペース、WhaleとPackmanという2つの巨大集合住宅との位置関係を見るとより鮮明にそのことがわかる。興味のある方は上の写真をクリックし、さらに緯度経度の表示をクリックすると地図が出るので、写真表示にしてご確認ください。
そう考えると、この橋を眺める姿勢も変わってくるよ。要するに、用・強・美を基本とする構造デザインの観点だけで眺めてはいけないということだ。こうした多様性を受け入れるのには、すごくいい題材だね。
ちなみに同じ対象物なのに写真の光の具合が違うのは、2日続けて見に行ったためである。初日はもやがかかっていたのに翌日は快晴だったので、予定を変更してついついまた見に行ってしまったのだ。全く好きにはなれないのに、妙に心に引っかかるんだよな、この橋。