はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

緑の中の昇降

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チューリッヒから電車で15分程度で行けるバーデンという街に、いろいろなミスを重ねてしまって1時間以上かけて到着した。お目当ては、市街地とリマト川の高低差を解消するリフト付き歩道橋。駅前の傾斜地につくられた人工地盤に接続している。

茶色のトラスのタワーと下路桁橋は、想像以上に緑に溶け込んでいた。というか、緑が旺盛すぎて構造物全体が見えるポイントは皆無だった。このリフト付き歩道橋を見るためには、落葉時がベストだろうな。しかしまあ、エレベーターの箱は全面がシースルーなので、緑の中を縦方向に移動すること自体がとても楽しい体験が得られた。

ちなみに、リマト川を渡る歩道橋はエレベーターのタワーをヨコにしたような姿で、セットでつくられている。川の風景とのおさまりがとてもよく、時間がないというのに駅で買ったサンドを食べながら、ぼんやりだらだら過ごしてしまった。バーデンは旧市街を中心に見どころが多いようなのだが、完全にスルーせざるを得なくなった。チューリッヒに戻る際にもうっかり各駅停車に乗車してしまい、図らずしてのんびりとした電車の旅になった。長旅の後半は疲れが出ていたので、結果的にちょうどよかったな。

それはさておき、縦方向の移動と横方向の移動をセットで体験できる「リフト付き歩道橋(仮)」には、独特の面白さと今後の可能性がありそうだ。これからも事例を探して、しっかり押さえていきたい。となると、次はスペインかな。

 

 

駅前エレベーター橋

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ボーデン湖畔のロールシャッハという街に、駅と駅裏の住宅地との高低差を解消するリフト付き歩道橋があるというので行ってみた。これが、ミニマルで雑味がない造形と仕上げの中に知的な色気を織り交ぜるという、いかにもスイスっぽいかっこよさを存分に体現している構造物だった。

地下通路に接続するエレベーターの高さは30m、デッキの橋長は40mとのこと。当初は橋梁部分は箱断面だと思って見に行ったのだけど、写真反対側の開口部が大きすぎてよくわからなかった。

このタワー部の駅側には、ボーデン湖を眺めるバルコニーが設けられている。エレベータそのものも、もちろんシースルー。そこからは、デッキの軸線が古い駅舎の中心にきっちり合わせられていることも確認できるよ。

ちなみに、この街と同名の心理テストは人名由来なので、直接の関係はなさそうだね。

 

穏やかな謎の国

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5年前のスイス訪問時にもリヒテンシュタイン公国へ行った。しかし、さらっと通過しただけであり、写真すら一枚も撮っていなかったので、もしかすると本当は行っていないんじゃないかなどと思うようになった。このため夏のアルプスドボクツアーでは、ちゃんと車を止めて何らかの写真を撮ることを大きな目的のひとつに掲げ、ついに実現することができた。上記写真は、首都ファドゥーツにある国会議事堂前の通りと広場。崖の上にチラリと見えるのは、リヒテンシュタイン家が暮らすファドゥーツ城。首都の目抜き通りはとても質感が高く、とても穏やかな印象だったな。

外務省のデータによると、リヒテンシュタイン公国の国土面積は160km²、人口は3.7万人(2014年)とされている。日本の市区町村のデータ(国土地理院および各市区町村の統計資料)を参照してみると、茨城県かすみがうら市(面積:156.6km²、人口:4.2万(2015.9))、新潟県小千谷市(面積:155.2km²、人口:3.6万(2016.6))のスケール感に近いことがわかる。ちなみに神奈川県川崎市(面積:143.0km²、人口:148.9万(2016.9))と比較してしまうと、一気に現実感が無くなる。

この小さな国はどうやって維持されているのかが気になったので、やはり外務省のページを参照してみた。どうやら、国家機能のかなりの部分をスイスに「外注」しているらしいね。たとえば、国防、外交、通貨など。軍隊は1868年に解消して非武装中立政策をとっているし、1919年のハプスブルク帝国の崩壊時に領事業務の利益代表をスイスが行うことに合意しているし、1923年にスイスフランを導入している。主要産業は精密機械と医療機器と記載されているが、どうやらタックス・ヘイヴン(租税回避地)としての金融機能も担っているようだ。ここからの税収が多いためか、国民の直接税は「なし」とのこと。

まあ少し調べただけではよくわからないな。というか、ますます謎めいた国に思えてきた。もともとオーストリアの貴族だったのになんでスイスと仲良しなのかとか、スイスとの関係を保証する根拠ってなんなんだろうとか、スイスは国民皆兵だけどリヒテンシュタインはどうなんだろうかとか。それに、どうやらリヒテンシュタイン公は、現在もオーストリア国内にリヒテンシュタイン公国よりも大きな面積の土地を所有しているらしいし。機会があれば、また訪問したい。