はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

日蘭が接続する風景

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昨日はオランダの写真家ルーク・クラメール氏の講演会に参加してきた。本当に偶然なのだが、数ヶ月前にクラメール氏の写真にすっかり魅了されて、写真集「Waterworks in the Netherlands」を購入したばかり。どこまでも平坦で拠り所がつかみにくいオランダの水環境の風景を、見事に捉えているように感じたので、即買いだった。もちろん鼻息を荒くしながら写真集を会場に持ち込み、ちゃっかりご本人にサインしていただいちゃった。

講演は英語だったけど、とてもゆっくりお話しくださったので、僕でもよくわかった気がする。こちらも強い興味を持っている内容だし、行ったことがある場所が数多く登場したし、僕の実感とも重なることが多かったので、素直にワクワクしながらお話を聞くことができた。メモとして、講演で触れられて本ブログにも記載しているものを、下の方に貼り付けておこう。

写真家のトークなので写真表現や写真技術の話が織り込まれるのかと思いきや、そうではなかった。オランダの治水利水、日本におけるオランダの痕跡、スリナムの水環境などについて、土木エンジニアリングや国土マネジメントの観点から解説するというお話だった。おそらく、その風景が成立した背景や理由を、過剰なほどに理解した上で撮影に臨んでいるのだろうな。さらに、そもそもエンジニアリングの眺めに興味を持たれているのだろうな。

現在はムルデル、デ・レーケ、エッシャーなどの、オランダから来て近代日本をつくりあげた「お雇い外国人」の仕事を中心に撮影を進めているとのこと。そこにオランダの風景を重ね合わせる視点にも、強く共感し、感激した。

講演会第2部はクロストークが行われたのだが、別件があって残念ながら拝見できなかった。やはりずいぶん面白かったようなので、その内容は関係者にそこっそり伺おうと思っている。日本でのプロジェクトの成果が本当に楽しみだな。

Luuk Kramer: Waterworks in the Netherlands: Tradition and Innovation

Luuk Kramer: Waterworks in the Netherlands: Tradition and Innovation

  • 作者: Theo Van Oeffelt,Bernard Hulsman,Luuk Kramer,Inge Bobbink,Ellen Vreenegoor
  • 出版社/メーカー: Nai Uitgevers Pub
  • 発売日: 2018/02/27
  • メディア: ハードカバー
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Double Dutch: Architecture in the Netherlands Since 1985

Double Dutch: Architecture in the Netherlands Since 1985

 

 

崩壊した壁

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今日がベルリンの壁崩壊から30年という記念日であることを先ほど知った。もうそんなに経ったのかという気持ちと、まだ30年しか経っていないのかという気持ちと、どちらもある。振り返ってみると、この日を境に世界が動いたことは間違いなさそうだ。

僕がベルリンを訪問したのは、およそ8年前のこと。その時は壁の痕跡があまりにも広範囲に及んでいたのでびっくりした記憶がある。しかも、そのまま残していたり、ペイントのキャンバスにしたり、鉄筋のモニュメントに置き換えたり、路面標示だけにしたりと、その残し方の多様さにも感激した。そして、かつて世界を分断していた壁は、わりとペラペラなプレキャストL型擁壁ということにも驚いた。たったこれだけの厚さのコンクリートに、どれほどの人が苦しめられたのだろうかと。

せっかくなので、今夜はこれからベートーヴェンの交響曲第9番を聴いてみようかね。これ以上世界が分断しないようにと願いながら。

用水の恩恵

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三島市街地を貫流する源兵衛川。いろんな賞を受賞している有名物件なので、ずいぶん前から見に行かなきゃと思っていたのだが、1ヶ月ほど前にようやく実行した。大きな声では言いにくいが、ここの写真や論評などはチラホラ見ていたのに、どこかピンときていなかった。実際に行くと、そのモヤモヤの要因はわりとすぐわかった。

親水性ってのはこういうことなのかと思い知らされる空間が連続している一方で、反射的に一般的な川、つまり洪水時の排水路として活躍する河川のイメージで捉えていたのだ。阻害物っぽい飛び石ブロックや水面に接近する桟橋や、そもそも遊歩道に柵がないということなどが、すぐに飲み込めなかったんだな。

そう。源兵衛川はもともと農業用水路なんだね。だから管理用通路としての飛び石という捉え方が可能なんだね。現在は上流の工場排水の水量をコントロールしているらしいが、元を正せば富士の湧水なわけだ。どおりでやたらと冷たいわけだ。どおりで下流に広々とした温水池があるわけだ。どおりで洪水対応の要素が見当たらないわけだ。

河川や農業の制度の隙間をかいくぐって、市民ファーストの空間を作り続けているって、やはりすごいよことだねえ。感激とともにせせらぎの居心地よさが響き合い、ずいぶんスケジュールが後ろにきつくなっちゃった。この源兵衛川が、ほんの30年近く前までは悪臭がするドブ川だったなんて、まったく想像できないな。やり方と肝の据え方次第でいろんな取り組みができるんだな。