はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

写実絵画としての郊外


先週末、びっくりキャンチレバーで有名な写実絵画専門のホキ美術館で行われた「建物探検セミナー」に参加させていただいた。欧州滞在時にガイドツアーに参加する機会を何度も得たが、やはり日本語での解説はいいね。細かいところまですごくよくわかったよ。
ホキ美術館はコンセプトが素直に具現化されているとても面白い建築。ほぼ連続するひとつの動線を幾重にも折りたたんだことで生まれた空間フォルムは、テーマを絞った美術館として極めてわかりやすい。ディテールも実に手が込んでいて、しかも押しつけがましくなくて、絵画の鑑賞をうまく誘導してくれている。
そんな素晴らしい建築物ではあるものの、残念な点もいくつかあった。その多くは新興住宅地と公園に挟まれた狭隘な敷地に起因しているように思える。すぐ隣は電柱電線がにょきにょきしている狭い道路で、ごく普通の住宅が並んでいる。いくらこの美術館が住宅地のスケールを逸脱していなくても、周辺環境との断絶は大きい。また、様々な動線の断面が見える南東側は大きな見せ所だと思うのだが、実際は職員用駐車場として運用していて、かなりがっかりする。ここまで完成度の高い建築ならば、地下駐車場にまで踏み込むべきだったのではないだろうかね。
美術館のシンボル的存在であるキャンチレバーの内部からの眺望は当然気になるよね。設計側からすれば、ここは内部シークエンスの山場になるわけだから。かなり期待して見てみると、上の写真(建物探検セミナーでは通常禁止されている館内の撮影が許可される)にあるように、隣のニュータウンの風景が枠の中に収まっていて、なんとも微妙な気持ちになった。これはいったい何を意味しているのだろうか。おそらくここには現代日本の典型的な郊外を超写実で描き、そこに内包されている様々な問題点を表現するという深遠なテーマが隠されているのだ。のか?
現代技術の集積たる鋼箱桁の張り出しと新しい郊外の日常とのコントラスト。ガイドをしてくださった設計者の方もおっしゃっていたが、この美術館を核にどうやってまちが成長していくかが楽しみだね。行政も柔軟に対応してもらえると、良いモデルケースになるんじゃないかな。ときどき観察しに来なければいけないね。