はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

岬の上の小さな村


イタリアの構造設計家のリッカルド・モランディが設計した「Lussia Bridge(Ponte Morandi)」は、構造のおもしろさと凛としたたたずまいから、個人的な「死ぬまでに体験しておきたい橋梁ランキング」の上位にいつも位置していた。2年前に2ヶ月間ほどミラノに滞在していたとき、これはチャンスとばかりにこの橋を行程に組み込んだドライブコースをつくり、お正月休みに実行した。チンクエテッレのひとつであるリオマッジョーレ(参照:信じがたい調和)に一泊して、この橋を見た後にパルマに宿泊するという行程だ。地図上で見ると、十分なゆとりがある、なんてことのない行程だと思っていた。
ところが実際は、かなりハードだった。思っていた以上に、イタリアの山が手強かったのだ。すれ違いもままならないくねくね道が連続し、いくつもの小さい村を抜け、いくつもの峠を越えて、この道で合っているのか不安にさいなまれながらレンタカーのフィアット500を飛ばした。ちなみに、その道中ですれ違った車のほとんどは、旧型のフィアットパンダと旧型のフィアットプントの2種類だった。ここら辺に住む人にとっての車は、実用オンリーなんだろうね。そして、ようやくこの橋のある「Vagli Sotto」という村に到着したときは、心からホッとした。
お目当ての橋は十分な時間をかけてたっぷり味わったのだが、ダム湖に突き出した岬の上にひっそりとたたずむ村にもすっかり感動した。どうしても散歩したくなる素敵な雰囲気の村で、その後の行程をすっかり忘れてのんびり過ごしてしまったのだ。イタリアの山間に点在する小さな村にはディープなファンが多いと聞いたけど、土地への愛着や生活文化の積層ってのは、思っていた以上に強く心を動かされるんだな。
後ろ髪を引かれつつ村を後にすると、すでに陽が傾きはじめた湖畔の風景を見ることができた。ついつい寂しさがこみ上げてくる眺めである。ちなみに、ダムの点検のためにダム湖の水をすべて抜くという作業が数十年に一度の頻度であるらしく、その時に「ダム湖に沈んだ幻の村」が現れるという。「Lago di Vagli」でイメージ検索するといろいろ出てくるよ。
すっかりセンチメンタルな気分に浸ってしまったが、本当の戦いはそれからだった。日が沈んだ山道をハイスピードで下るのが本当につらかった。疲労と睡魔に加えて、イタリア人の乱暴な運転が次々と襲ってくるのだ。そんな状態でようやくパルマに到着し、ぎりぎり閉店前のレストランに滑り込んでいただいたパルマハムとパルメザンチーズは、これまた感動したよ。