ヴェローナのカステルヴェッキオ美術館(古城の軽い橋)、ヴェネツィアのクエリーニ・スタンパリア美術館(スカルパの橋)などをじっくり見た結果、カルロ・スカルパの信念に基づく動線計画の緻密さやディテールの工芸的完成度の高さなどにすっかり魅了された。このためにヴェネツィア訪問時は、北西の方角に少し離れた小さな村にあるスカルパのお墓参りを敢行した。スカルパ自身が設計した「ブリオン=ヴェガ墓地」は、建築方面ではかなりの有名物件のようなので、ちょっと検索すればいくらでも情報が得られるよ。上の写真は墓地の中にある礼拝堂の内部空間。墓地は設計の自由度が高いのだろう、動線やら空間構成やらディテールのやりたい放題さといったらこの上ないよ。
この日の目的はスカルパのお墓参りだけでなく、アルプス山中のロンガローネ村などを水没させて2000名以上の犠牲者を出した大事故の現場である「ヴァイオント・ダム(近代技術の敗北)」を訪れて、追悼することだった。日の高いうちに訪問する予定だったのだが、現地に着いたのは夕方になってしまった。なぜなら、道中で嬉しい誤算があったから。
ブリオン=ヴェガ墓地からわりと近い村にスカルパが手がけた美術館があると聞き、ヴァイオント・ダムに行く前にチラ見することにした。その美術館の位置は少しわかりづらく、なかなか見つけられなかったが、ようやく到着して一通り美術作品を鑑賞した。展示の規模は小さく、写真撮影も禁止だったので、わりと短時間で十分に堪能することができた。受付に戻って副館長を名乗るおじさんに挨拶した際に「スカルパを見に来たんだ」と言ったところ、急に彼のスイッチが入って満面の笑顔になり「建物の中は撮影禁止だけど外ならいいよ」と、わざわざ裏側を案内してくれた。しかも、「立入禁止の柵の向こう側がいい眺めなんだよね、僕は何も見ていないよ」と言い残し、笑顔とともに立ち去った。そこから先のコメントはここでは差し控えるが、なんとも至福のひとときを過ごした。そして受付に戻ると、おじさんはやはり満面の笑顔で、売り物である美術館のカレンダーと絵はがきをプレゼントしてくれた。どうにかお金を払おうとしても、笑顔で拒否されてしまった。
スカルパ作品を通じて感じたことと、美術館の副館長の対応の素敵さが妙に重なり、彼らが本質に向き合って真剣に生きてきた結果として獲得した底抜けの明るさと、それを赤の他人と共有しようとするマインドを、心地良さとともに受け止めることができた気分になった。イタリア人のいい加減さは、脈々と引き継がれていた文化に裏付けられたものなんだろうね。だからこそEUの問題児であっても、他国から一目置かれる存在であり続けるのだろうね。やっぱりまた行きたいなあ。