2006(平成18)年7月、主に鹿児島県の北部を流れる川内川流域は記録的な豪雨に見舞われた。その規模はすさまじく、中流にある鶴田ダムが「計画規模を越える洪水時の操作」に移行せざるを得なかった、つまり、ダム湖がすっかりおなかがいっぱいになってしまい、入ってくる水と同じ量の水を吐き出す事態になったほどひどいものだったらしい。そして、流域全体で未曾有の洪水が発生してしまったという。
数ヶ月後にはこの災害に対応する「川内川激甚災害対策特別緊急事業」がスタートした。この文字列を見るだけでも、かなりやばいということが伝わってくるよね。その事業のひとつが、伊佐市の「曽木の滝分水路」だ。幅210mの滝が洪水時にボトルネックになることを避けるために設けられた「バイパス」である。
これがすごいんだよ。山をばっくり切り取るという極めて不自然なことをやっているのに、「あたかも自然がつくり出したかのような景観の創出」を徹底的に実行したんだよ。自然の流れを模してわざと河川断面の揺らぎをつくったり、ダイナマイトをわざと不均一にして石の目に合わせて粉砕したり、それらを実現するために「現場」でじっくり調整したり。時間的空間的スケールがすでに神の領域に達しているように感じられ、その意味で「自然」だったりする。
以前からこの分水路の話は何度も聞いていたのだけど、実際に現地に行かないと感じ取れないことがたくさんあったな。上の写真を見るとすごくワイルドで不自然に感じるかもしれないけど、実際に現地に行くとその肌理の細かさに脱帽してしまうのだ。テーマパークにあるFRPの山とはぜんぜん違う体験だよ。ここまでやればあとは自然に任せられるよねと妙に安心できるって、なんとも不思議な感覚だね。これから50年後100年後、どんな「自然の風景」に変化していくのだろうか。