はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

大陸の海の道

今年の元日はマカオから日本に帰国した。でも、マカオ国際空港ではなく、香港国際空港を飛び立つ便で。というのも、中国の特別行政区である香港とマカオ、そして中国本土の珠海市を結ぶメガストラクチャーの「港珠澳大橋」を、バスで通行する体験をしたかったためだ。ついでに、マカオで出国手続きを済ませて、香港には入国せずに乗り換える、つまりトランスファーの位置付けで飛び立つという、ちょっと何を言っているのかわからない状況の体験をしたかったためだ。

2018年に開通した港珠澳大橋は、参照元によって表記が異なるのでわかりにくいが、海上橋梁区間約23km、海底トンネル区間約7km、香港側の複合区間約12km、マカオ側の複合区間約13kmからなる、全長約55kmのルートの名称のようだ。幅員は約33mの6車線、設計速度は100km/h、耐用年数は120年、中国と香港の両者の設計基準で設計されているという。主な橋梁区間は連続鋼床版箱桁と連続合成箱桁橋で構成され、航路部分には3つの長大斜張橋が配置されている。まあとにかく、凄まじいスーパースケールの海上道路である。

このルートを通るために、まずは現在絶賛開発進行中の珠澳口岸人工島につくられた港珠澳大橋澳門邊檢大樓(マカオ出入国ターミナル?)にタクシーで移動した。これが真新しい国際空港ターミナルビルのような雰囲気の立派な巨大施設であることに驚いた。それにしては人影がまばらであることが気になりつつ、香港行きの案内に従ってチェックインカウンターへ。ここで香港から飛び立つ飛行機のチェックインを済ませて、手荷物のスーツケースを預けた。ネットの情報に従って、たっぷり時間を確保していたので、予約したひとつ前のバスに乗せてもらえることに。そして、ガラガラの出国審査レーンを難なく通過し、ボーディングブリッジならぬバス乗り場に。元日に移動する人が極端に少ないのだろうか、どこもかしこもオーバースペックな雰囲気でとても心配になった。そして、案内開始と同時に席を立ち、無事にバスの最前席を確保した。

そこから先は、大興奮。あいにくモヤがかかったスッキリしない天候だったが、かぶりつきの座席からゴージャスな道路空間をたっぷり45分ほど堪能できた。いろんな意味で中国って凄まじいなと、あらためて思わされた。道路がやたらとハイスペックなのに、通行量は極端に少ない。シンボリックな吊り屋根が架かるずらりと並ぶ料金所のうち、ふたつだけが空いている。3つある長大斜張橋のタワーの造形が、それぞれエグい。香港とマカオは日本と同じく左側通行だが、この道路は中国本土と同じ右側通行。マカオの区域はアスファルト舗装で、香港の区域はコンクリート舗装。路面標示の順序は日本とは逆で、何度も香港を「港香」と認識してしまう。最終日にして最も濃厚なドボク体験ができた。

香港国際空港に到着すると、預けた荷物を受け取ることもなく、セキュリティーチェックの後はいきなり制限区域へ。これはなかなか味わえない気分だった。その後はキャセイパシフィックの立派なラウンジでのんびり飲み食いして、良い気分のまま無事に成田に到着した。

香港やマカオとともに、広州市、深圳市などの広東省の都市圏を「グレーターベイエリア(粤港澳大湾区)」として、サンフランシスコ、ニューヨーク、東京に匹敵する都市圏に位置付けようとしているらしい。そのためのインフラのひとつが港珠澳大橋であり、オーバースペックに感じた理由は、背後にある壮大な将来構想に起因しているのだろう。なにやら、この橋のわずか30kmほど北側にも深圳市と中山市を結ぶ「深中通道」が8車線で建設中らしいし。

元ポルトガル領のマカオと元イギリス領の香港を結ぶこの道路からは、ひとつの中国である強烈な意志を印象づけられた。中国パワーが継続するのかどうかは知らないが、今後グレーターベイエリアがどんな展開になるのか、大きな興味を持つことができた。