はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

連続斜行装置

ほとんど九龍半島を歩かなかったせいかもしれないが、香港の街は想像をはるかに超えて平地が少ない印象だった。急傾斜地に超高密度の都市が形成されており、どこを歩いても僕にとって魅力的な景観が展開していた。どこから手をつければいいかわからなくなり、ワクワクしつつも本当に困惑した。

そんな中でも、訪問前から必ず見に行こうと決めていたものが、「中環半山扶手電梯」という全長800m、合計23基のエスカレーター群。街の中心部から高低差135mの高級住宅地に至る、無料の乗り物だ。労力をかけずに登坂するという機能だけでなく、多面性のある街を眺めるための移り変わる視点場としても極めて優秀。移動するだけなら合計23分とのことだが、僕は40分ほどかけてのんびり登った。進行方向は時間帯によって変わるらしく、6:00~10:00が下り、10:00~0:00が上りとのこと。そもそも住民用だもんね。帰りは横道に逸れながら、『日常の絶景』にも書いたように、高低差が生み出す試行錯誤の蓄積、水平とのせめぎ合い、巧まざる造形などをたっぷり鑑賞した。

高低差を意識しながら移動する体験は本当に楽しい。すっかり放置してしまっていたが、「斜行事例」や「段差解消法」の収集を、あらためて決意した。