はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

アーチを支えるアーチ

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スペインのログローニョでたまたま通りがかって見に行ったプラクセデス・マテオ・サガスタ橋(Puente de Práxedes Mateo Sagasta)は、とてもワクワクした。なにしろ、力の流れが魅力的な造形で可視化されているのだから。このような体験は、そう簡単に得られるものではない。

アーチという構造システムはそもそも、アーチがある面に生じる力にはめっぽう強いが、例えば横からの力など、いわゆる面外方向の剛性はほとんどないと考えてよい。リアルワールドでは、必ず生まれる風や振動や地震などに起因する力に対して、何らかの対応を行う必要があるわけだ。具体的には、アーチを二面にするとか、ペラペラのアーチではなく基部を外側に広げるとか。

で、この橋の解き方はとてもユニーク。基部がすぼまったアーチから車道が吊られている。同時に、車道から分離された歩道を吊っている。これにより、面外方向の力に拮抗するアンカーを確保しているようだ。おそらく、水平方向のアーチとしてさらに剛性を高めているのだろう。驚くのは、そんなトリッキーなことをやっているのに、造形面で破綻なく魅力的にまとめ上げられていることだ。スペイン人が育んできたのであろう立体造形感覚って、本当にすごいと思うね。

名称表記問題

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海外の土木構造物を紹介する場面では、名称表記問題にたびたび直面する。現地語と英語のどちらを採用するか、アルファベットとカタカナのどちらを採用するか、正式名称と通称や俗称のいずれの表記を採用するか。そもそも参照する資料によって名称が異なり、判断できないことも多々ある。個人的には正式名称の現地語をカタカナで表記したいのだが、その限りではない。発話しやすさ、馴染みやすさ、検索しやすさなどを考えて、結局はケースバイケースで判断基準がブレてしまう。

上の写真はスペインのログローニョという街にかかる、トリッキーでかっこいいアーチ橋。2019年の正月旅行の際、この橋と直交する道路を夜に通った際、偶然横目にチラリと入ったため、翌朝になって引き返して見に行った。もちろん予備知識は全くなかったので、現地で少し情報を得ようとGoogleマップを見ると「Puente de Sagasta」と表記されていた。しかし、検索してみてもいまひとつピンとくる情報が得られず、その場ではそれ以上探らなかった。

帰国後に少し調べてみると、この橋を設計したカルロス・フェルナンデス・カッサード事務所(Carlos Fernandez Casado, S.L.)の公式ウェブサイトでは、「Cuarto puente sobre el río Ebro」と表記されていることがわかった。日本語にすると「エブロ川第四橋」だろうか。このような呼称は、設計段階における仮称である可能性が高いよね。別方面から調べてみると、日本の高名な橋梁デザイナーが「ログロノ橋」として紹介している記事にたどり着いた。そこで満足してしまい、あらためて調べることもなく、すっかり放置していた。

本日は、ときどき参照している構造物データベースサイトの「Structurae」にて、別件の調べ物をしていた。本橋のことをふと思い出して調べ直してみると、名称は「Puente de Práxedes Mateo Sagasta」となっていた。どうやら1880年代頃にたびたびスペインの首相を務めた偉大な政治家の名を冠しているようだ。ということで、正解は「プラクセデス・マテオ・サガスタ橋」という表記になるっぽい。素直にGoogleマップの情報を手がかりに掘り下げておけばよかったというわけだ。こうやって名称の表記に振り回されることは、数知れない。

静かな採石場

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松山の石手川ダムのフーチング。その巧まざる立体構成が見事すぎて、胸が高鳴る。

ダム堤体の大きなカーブとフーチングの直線、極めてシャープでダイナミックな陰や影、コンクリートのかたまり感と手すりや植生に見られる繊細さ、岩盤の複雑なテクスチャーとフラットなコンクリート面。さまざまなコントラストをまとめて楽しむことができる。

それはまるで、大理石を産出しているイタリアの採石場・カッラーラのようだ。まだ行ったことがないけど。いつか行くつもりだけど。早く旅に出たいな。