はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

構造の理解の仕方

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多少なりとも橋梁設計に触れていた身からすると、映画や漫画の世界に登場する橋にびっくりすることがある。例えば、メインケーブルが切断されているのに全体が崩落しない吊橋、中央の橋脚によってやじろべえのようにバランスを保っているアーチ橋、橋脚なしにタワーとケーブルが空中で成立している斜張橋、などなど。玄人の立場から素人の無知を一笑に付すことも可能なわけだけど、構造システムなんて考えたこともないごく普通の人々が、どのように目の前の事象を理解しているのかを知る手がかりだと捉えると、がぜん興味が湧いてくる。

ずいぶん前のことになるが、僕の恩師はこれに似たような現象に対して「folk physics」という言葉で説明していた。鉄道橋のトラス部材は車両が落ちないようにするためのものとか、斜張橋のケーブルはタワーが倒れないように引っ張って支えているものとかね。直訳は「民俗物理学」だけど、僕は物理的現象に対する一般的な認知の仕方であり、自分にとって理解しやすいように組み立て直す現象なのではないかと解釈している。こうした事例を「民間伝承ドボク」とでも題して集めてみようかと思っているのだけど、そう思い続けてもう5年以上は経っている気がする。

それはさておき、そんな素人っぽいアイデアが実物として目の前に現れると、ものすごい勢いで慌てふためくことになる。それはもう魔法にしか見えない。ロンドンのロイヤル・ビクトリア・ドック橋もそのひとつ。タワーとケーブルによって中間の橋脚がない構造を実現している斜張橋のようなトラス橋。この橋の前で、自分を納得させるまでにえらく時間がかかったことを憶えている。そんな気分になった橋を、いくつかピックアップしておくね。