構造エンジニアのユルグ・コンツェットが携わったアルプス山中のトレッキングコース「Trutg dil Flem」には、同氏が設計した歩道橋が7つ架かっている。そのうちのひとつに、ものすごく深く狭い箇所を跨ぐ橋がある。英語名は「Mushroom Rock Bridge」であり、その名の通り、渓流の上に迫り出した岩の上にある。この橋を渡るときは、その狭さからヒヤヒヤしながら足下を見ざるを得ないので、激流と奇岩を直上から目撃することになる。
コンツェットが描いた手書きスケッチ的な図面を見ると、コンクリートの床版は厚さ120mm、長さが4.6m。定着部の長さが両側400mmずつになっているので、支間長は3.8mということなるのかな。階段も含めた床版部分の幅はわずか500mmで、縦桟のステンレス高欄の根元が両側に100mmずつ広げられ、ようやく700mmの幅員が確保されている。
個人的にはそのミニマルなフォルムや質感から、やけに人工的かつ現代的な印象を抱いた。そのことをご本人へのインタビュー時に伝え、豊かな自然環境の中でなぜこのような解き方をしたのかを伺ったところ、ものすごくストレートに、渡るときに真下のすばらしい様相を見てもらいたかった、とのこと。つまり僕は、ものすごく素直に彼の術中にはまっていたわけだ。
高欄がやたらと橋軸方向に揺れたのだが、それについては聞きそびれた。もしかすると、それもスリルを生み出す仕掛けだったのかな。