はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

地域の材料

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つい先日、宇都宮を散歩する機会があったので、すぐ近くに産地がある「大谷石」の使われ方を気にしながら歩いてみた。これまで何度か大谷資料館などの採掘場跡地を訪問していたので、倉や塀などの使用例が極めて多いことはある程度知っていたんだけど、思いのほか様々な状況で登場していた。特に「台」の用例は、いくらでも出てくる勢いだった。

おそらく、用途と時期と分布、さらに、採石技術と輸送技術などには、大きな相関関係があるだろう。もちろん、コンクリート技術の発達とは、負の相関関係があることも間違いないよな。そんな想像をかきたてる複数の材料が混在している壁面には、ついついニヤリとしてしまった。

ともかく、宇都宮地域の風景を構成する材料として、大谷石の存在がとても大きいことが確認できた。真新しい使用例も多数確認できたので、その価値が一周回って認識されていることも感じられたし。

今回の旅では、たいへん幸いなことに、あの素晴らしいツアー「OHYA UNDEGROUND」を立ち上げた方と知り合うことができた。あらためて機会をつくって、しっかりツアーのお話を伺いたいな。

都市内サーフィン

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海岸から500kmほど離れた内陸都市のミュンヘンにあるエングリッシャーガルテン(イギリス庭園)の一角に、なぜかサーファーが生息しているという情報を、何年か前にテレビか何かで得ていた。アルプス訪問の際にそのことを思い出し、本当にそんなバカバカしい連中が実在しているのか、小雨が降る気温15度の中で不安を抱きつつも行ってみた。
すると、女性や子どもも含む総勢10名ほどの「リバー・サーファー」たちが、小さな人工河川に生じたダイナミックな定常波の上で、本当にサーフィンをやっているではないか。驚愕しつつも、すぐにシンプルなルールが存在していることがわかった。一人ずつ、両岸から交互に、長時間にならないように、整然と波に乗っているのだ。アナーキーな遊びかと思いきや、なんとも社会性を感じる遊び方。ものすごく楽しそうだし、見ていてもたいへん面白い。実際に、ギャラリーもたくさんいた。
それにしても、なぜこの場所に一定の強い波が生じているのかが気になって仕方ないよね。おそらく河床位置の違いから生まれる定常波なんだろうなあ、洗掘とかシリアスな問題は生じていないのかなあ、設計者としては微妙な気分だよなあ、なんてことが気になるよねえ。そこで日本語で少し検索してみたのだが、「ポンプで波を発生させている」などの表現が散見された。そんなバカな、わざわざ人工波をつくるわけなかろうと思い、仕方なく苦手な英語で検索したら興味深い話が出てきた。
世界中に広がりつつある「リバー・サーフィン」というスポーツは、この場所で1970年代前半に生み出された。2007年に不幸な事故が起きてしまったことで、数年間は禁止されていた。その時期、リバー・サーファーたちは隠れてサーフィンをしていたが、やがて市民の署名運動に発展した。その結果、ミュンヘン市がバイエルン州からこの周辺の土地をわざわざ購入して合法化し、「熟練者に限る」という条件で実施するに至った。現在は年間を通じて毎日サーフィンが楽しまれている。ごく簡単に要約すると、どうやらこんな話のようだ。
自らの努力で楽しむことを獲得し、その自覚を持って適正なルールを構築して運用するという行為からは、社会的な成熟が感じられる。自己責任を前提とする文化ならではなのかなあと思い、文句を言った者勝ちという空気が蔓延している我が国の息苦しさを、逆に意識化することになってしまった。
そんなわけで、なぜ定常波が生まれているかという問題については、まだ調べていない。とりあえず、跳水(hydraulic jump)がキーワードのようだが。

【参考記事】
Deutsche Welle : Surfers hit the waves in Munich's first summer of legal river surfing
BBC : Riding the wave of change on Munich’s Eisbach

 

風変わりなトラス橋

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オーストリア西端エリアのブルーデンツの街はずれに架かる、Alfenz Bridgeという風変わりなコンクリートトラス橋。先日紹介したSchanerloch Bridgeと同様に、Marte.Marte Architektenという設計事務所が手がけている。

河川の合流部に架けられているためか、計画高水位がかなり高いようだ。新設するサイクリングロードの路面位置を高くしないために、桁高を抑制できる閉断面の上路構造を採用するに至ったのだろうね。支点部付近の密度が高くなるように設定しているようだけど、なぜこのような開口にしたのかは定かではない。それなりに不合理な点は多々あるに違いないと思いつつも、その造形のユニークさやそれを引き立てるための緻密なこだわりは目を見張るものがある。正直言って、かなりかっこいいと思った。

アルプスという自然環境が卓越する中で、風変わりな人工構造物が遊歩道やサイクリングロードにおけるひとつのランドマークになっていることは、なかなか面白いなあと感じた。ただ、道路橋や送電鉄塔などの周辺環境のごちゃごちゃ要因によって、この橋の良さが減じられていることが少々残念だったな。