はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

都市内サーフィン

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海岸から500kmほど離れた内陸都市のミュンヘンにあるエングリッシャーガルテン(イギリス庭園)の一角に、なぜかサーファーが生息しているという情報を、何年か前にテレビか何かで得ていた。アルプス訪問の際にそのことを思い出し、本当にそんなバカバカしい連中が実在しているのか、小雨が降る気温15度の中で不安を抱きつつも行ってみた。
すると、女性や子どもも含む総勢10名ほどの「リバー・サーファー」たちが、小さな人工河川に生じたダイナミックな定常波の上で、本当にサーフィンをやっているではないか。驚愕しつつも、すぐにシンプルなルールが存在していることがわかった。一人ずつ、両岸から交互に、長時間にならないように、整然と波に乗っているのだ。アナーキーな遊びかと思いきや、なんとも社会性を感じる遊び方。ものすごく楽しそうだし、見ていてもたいへん面白い。実際に、ギャラリーもたくさんいた。
それにしても、なぜこの場所に一定の強い波が生じているのかが気になって仕方ないよね。おそらく河床位置の違いから生まれる定常波なんだろうなあ、洗掘とかシリアスな問題は生じていないのかなあ、設計者としては微妙な気分だよなあ、なんてことが気になるよねえ。そこで日本語で少し検索してみたのだが、「ポンプで波を発生させている」などの表現が散見された。そんなバカな、わざわざ人工波をつくるわけなかろうと思い、仕方なく苦手な英語で検索したら興味深い話が出てきた。
世界中に広がりつつある「リバー・サーフィン」というスポーツは、この場所で1970年代前半に生み出された。2007年に不幸な事故が起きてしまったことで、数年間は禁止されていた。その時期、リバー・サーファーたちは隠れてサーフィンをしていたが、やがて市民の署名運動に発展した。その結果、ミュンヘン市がバイエルン州からこの周辺の土地をわざわざ購入して合法化し、「熟練者に限る」という条件で実施するに至った。現在は年間を通じて毎日サーフィンが楽しまれている。ごく簡単に要約すると、どうやらこんな話のようだ。
自らの努力で楽しむことを獲得し、その自覚を持って適正なルールを構築して運用するという行為からは、社会的な成熟が感じられる。自己責任を前提とする文化ならではなのかなあと思い、文句を言った者勝ちという空気が蔓延している我が国の息苦しさを、逆に意識化することになってしまった。
そんなわけで、なぜ定常波が生まれているかという問題については、まだ調べていない。とりあえず、跳水(hydraulic jump)がキーワードのようだが。

【参考記事】
Deutsche Welle : Surfers hit the waves in Munich's first summer of legal river surfing
BBC : Riding the wave of change on Munich’s Eisbach