はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

絶景の道

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ビスケー湾に浮かぶガステルガチェという島は、最後のジェダイや伝説のドラゴンの気配が濃厚に漂っていた。どうやら千年以上前から開かれた場所らしい。樹木の生育を拒む荒れ狂う風と波、大地の褶曲が感じられる岩の層、長い石段を経て到達する頂上の礼拝堂、なんともすさまじい様相だ。

そこに築かれたに道には、たいへん強く心打たれた。幾度となく補修が行われているようで、さまざまな工法や材料が混在していることが、線形の絶妙なゆらぎとともに確認できる。石造アーチ橋を渡った先の、まるでダムのようなつくりになっている箇所なんて特に。海岸に降りる階段は閉鎖されていたので、直接触れることができなかったことがとても残念だったが。

交錯する巡礼路

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今回のスペイン旅行の重要な目的は、スペインの構造家であるエドゥアルド・トロハが手がけた「アリオスの水路橋」を訪問すること。80年前の1939年につくられたこの橋は、自分が死ぬまでに体験しておきたい個人的世界三大名橋の暫定リストに登録されている。ちなみに他のふたつはロベール・マイヤールによるサルギナトーベル橋と、リッカルド・モランディによるルシア橋(モランディ橋)であり、どちらもすでに参拝している。今回がいよいよ最後の巡礼というわけだ。

現地に行ってみると、この水路橋は世界遺産にも登録されている「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」を跨いでいることがわかった。これは、フランスをはじめとするヨーロッパ各地からピレネー山脈を越えてスペイン北西部にあるキリスト教の聖地に行くための、年間およそ10万人が歩くというルート。実際に橋を見ている最中にも大きな荷物を背負って歩く巡礼者を何人も見かけ、挨拶を交わした方もいた。

本物の巡礼者と一緒にしちゃいかんとは思いつつも、個人的な橋梁巡礼が文字通り交錯している光景には、うっかり胸が熱くなった。誰も共感してくれないだろうけどね。上の写真は、巡礼路の石橋とアリオスの水路橋をセットで眺めた様子。どなたか僕に橋梁巡礼証明書を発行してくれないだろうか。いや、そこは自分でやるしかないか。

今回の旅はいろいろギリギリなことが多く、アリオスの水路橋の巡礼ができて本当によかったと思っている。特に焦ったのは、パスポートの有効期限。今年の4月8日が有効期限だったのだが、別件の関係で出発の数日前に調べてみたら、シェンゲン領域国からの出国予定日から3か月以上残っていなければならないことが判明したのだ。僕が持っているチケットは1月8日出発、つまり期限当日だったわけだ。この時は本当に行けるのかと青ざめた。羽田空港のカウンターでは担当の方が何度も見直していたので、なお不安に。その後に大丈夫ですと太鼓判を押してくれたので、心底ホッとした。いやほんと、気をつけなければね。その前に、自宅にちゃんと帰ってただいまと言うまでが巡礼だろうから、残り1日も気を引き締めて行動し、確実に帰国の途につきたい。

 

転換のシンボル

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あけましておめでとうございます。本年も本ブログを生暖かく見守ってくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。僕は新年早々、休暇をフル利用して海外逃亡しており、スペイン北部のバスク地方とリオハ地方を巡っている最中です。まあ自慢なわけですが。

今回は日本を夜中に出発し、フランスのシャルル・ド・ゴール空港を経由して翌日朝方にビルバオに入った。機内ではまともに寝ることができなかったため、到着時には朦朧としていた。ところが、ビルバオには体験すべきものがたくさんありすぎて、ビシッとせざるを得なかった。いやほんと長い一日だったな。

最初にどうしても行きたかったのが、ビルバオ・グッゲンハイム美術館。フランク・ゲーリーによって設計され1997年にオープンした、やたらとエグい建築物。いやもう、ため息の連続だった。ゲーリーだけでなく、さまざまな関係者の怨念のようなものを強烈に感じる空間と造形だった。やっぱり、実際に体験してみないとわからないことだらけだね。こんな建築物を実現させた街はすごい。

ビルバオはかつて製鉄や造船などで栄えていたが、1980年頃にはすっかり疲弊していたらしい。そんな工業依存都市から脱却するために取り組まれたのが、文化とインフラへの投資。その象徴がこの美術館なわけだ。これが突出しているように見えるけど、都市全体のコーディネートを考えた総合的な取り組みがしっかり存在し、その根底にはバスク文化があるってことがとてもよく感じられた。すっかり観光都市として成熟してきたのは、一過性のイベント的な仕掛けではないためだと強く感じた。ここらへんは帰国してからもっと調べて、深く掘り下げて理解したいところだな。

ビルバオ・グッゲンハイム美術館の素晴らしさは、外側と内側でうまく連続しているゲーリーの造形の凄まじさってのもあるけれど、川や地形との関係も極めて重要。どこからでも見えて、どこからでもワクワクできる。ちょっと浮かした川沿いの桁橋は最高の視点場であり、最高のシークエンスが体験できるし。

もちろん中身もすごい。特にリチャード・セラによる鉄の街・ビルバオにふさわしい巨大鉄板作品は、自分の感覚がおかしくなるよろこびを感じた。ドボク感が強いのはスケールアウトした空間構成からかな。いずれにしても、しっかり反芻したい。