はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

山奥の名橋

世界的に高い評価を得ている橋が、徳島県の山奥にある。2004年に完成した「青雲橋」という曲弦トラス橋の一種で、橋長97m、幅員5m、水面からの高さ約40mの車道橋である。fib(国際構造コンクリート連合)が2006年の最優秀賞に選定したことを記念するプレートには、「自碇式PC複合トラス橋」と記され、このタイプとして最大規模かつ世界初の車道橋とされている。なにがすごいのかって言うと、言葉で説明するのはなかなか難しい。難しいけど、自分のメモとして残しておきたいので、とりあえず書いてみる。

まず、谷の斜面にアンカーした橋台にPCケーブルを張り渡す。そして、その上に吊床版と鋼トラス材を含むプレキャストユニットを、連続的に載せる。橋の本体が構築できたところで、PCケーブルの定着を橋台から橋の端部に移す。そうすることで、橋に圧縮力となるプレストレスを導入して自碇式に変換し、谷の斜面への負荷を断ち切る。つまり、施工中と完成形の構造を異なるものとして、急峻な谷地形の環境でもつくりやすくて丈夫な橋を両立させているのだ。

四国の山奥の行きにくい場所にひっそりと存在している橋が、世界的にすごいというギャップ。厳しい環境だからこそ、高度な技術を駆使して解決する必要が生じるのだろう。良質な土木構造物を見るためには、移動の手間を惜しんではならないのだなあと、あらためて思う。

絶妙なリング

先日札幌に出張に行った際、今年の夏に開通したばかりの「アクティブリンク」に立ち寄ってきた。病院、ホテル、分譲マンションなどのビル群の谷に位置しており、それらの2階部分を楕円のような形状で連結する空中歩廊だ。場所はかつて僕が働いていた新札幌駅の近くで、市営住宅団地があったエリアの再開発。馴染みがありそうで全くない街に、極めてユニークな構造物ができていて、いろいろ驚いた。

なにしろ歩行部分の内側はガラスパネルのみで支柱が存在しておらず、橋脚も楕円の外側だけにある。絶妙なバランスで成り立っているこの構造は、内側に倒れようとする通路に対して、屋根部材が引張部材となり、床の部材が圧縮部材となってバランスさせている、いわゆるリングガーダーという理解でいいのだろうか。いずれ構造に詳しい方に聞いてみたいと思う。

この橋を一見するとざっくりとした形態のように思うけど、橋脚に微妙な傾斜がつけられていたり、構造部材と手すりが一体化されているなど、繊細な造形が随所に施されている。内側に橋脚がないことで、病院の車寄せの屋根にもなっているようだ。そうそう、排水管がすごく少ないように思えたけど、どんなマジックを使っているのかわからなかったな。総じて、さまざまな課題を統合的に解く姿勢が貫かれているように感じた。ここら辺は、さすがネイ&パートナーズジャパンの手によるものだね。

吊橋改アーチ橋

ひょんなことから「とくしま橋[はし]ものがたり」という、吉野川に架かる橋について記述された本をいただいた。そして、そこに掲載されていた三好橋という橋に目を奪われ、早速訪問することにした。なにしろ、もともと輝かしい吊橋だったのに現在はアーチ橋に改造されたという、数奇な人生をたどっている橋なのだ。

オリジナルの吊橋が建設されたのは1927(昭和2)年。四国の中心にあたるこのエリアの交通を確保することが悲願だったことは、吉野川に架けられた最初の橋であることからも推察される。支間長139.9mは、当時東洋一の吊橋だったとのこと。設計者は日本全国の名橋を手がけたスターエンジニアの増田淳。増田は同時期に、やはり吉野川に架かる吉野川橋と穴吹橋も設計している。やがてメインケーブルの一部に破損が見つかり、大がかりな補修を余儀なくされた。そしてさまざまな検討を経て、補剛トラスを一体化して活用しながらアーチリブを挿入して下から支える案が採用され、1989(平成元)年に生まれ変わったのだそうな。

ただこの橋、こんなにすごいのに鑑賞できる場所があまりにも少ない。結局僕は、全景を見渡せる視点場を見つけることができなかった。それでも前述の「とくしま橋[はし]ものがたり」に掲載されている写真から、この斜面なら見えるのではないかと徘徊した結果、どうにか上の写真の風景を見ることができた。本を読む限り、もう少し愛されていてもいいのになあと思ったり。

そうそう。なんとこの本、県の公式ウェブサイトから閲覧することができるので、ご興味のある方はぜひご一読を。三好橋以外にも、吉野川の橋の情報がたくさん得られるよ。

www.pref.tokushima.lg.jp