はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

スタジアムツアー

先日、不定期開催されている「国立競技場スタジアムツアー」にほとんど思いつきで参加してみた。これがとても面白くて、テンションが爆上がりになった。これまで何度もテレビで目にした空間に、自分がひょっこり紛れ込むという不思議な体験は、とてもワクワクするものだ。まさに現在行われている高校サッカーのテレビ中継も、妙な親近感やリアリティを抱いてしまう。

ツアーと言っても解説員がアテンドしてルート通りに巡るようなスタイルではなく、立ち入り可能エリアを自分のペースで自由に見て回ることができるという、僕にとってはたいへんありがたいものだった。全く縁がなかったインタビューゾーンやロッカールームにも立ち入ることができ、ラグビーやサッカーやオリンピックの選手たちが壁に残したサインも見られる。もちろん階層ごとに傾斜角が異なる観客席や木材をふんだんに使用した大屋根もじっくり鑑賞することができる。しかしなんと言ってもトラックやフィールドに降り立つことができる体験は、なかなか得られるものではないよね。

このツアー自体はとても楽しめたが、幻となってしまったザハ案のスタジアムが体験できたらより良かったのになあという想いが頭をよぎる。10年ほど前に実施されたコンペの結果を知った際には驚愕したわけだが、久しぶりにその当時の感想を見てみると、なおさら見たかったと思わざるを得ない。実現した国立競技場を堪能することも大事だが、あの恥ずべきドタバタを忘れるわけにはいかないよね。

私的ドボク大賞2022

あまり簡単には認めたくないところではあるが、早くも2022年が終わろうとしている。あっという間だった気もするけれど、今年の前半に起こった出来事は遠い昔のようにも思える。記憶が離散してしまう前に、例年通り、「私的ドボク大賞」を開催することで一年を振り返っておこう。14回目となるこの賞は、僕がその年に体験したドボク的ネタを振り返り、僕が感激したものを自薦して、僕が選考・表彰するという、誰の共感も求めない自作自演のアワードだ。

やはり今年もコロナ禍の影響で、出歩く機会はかつてと比べると少なかった。しかし、先日これはと思う対象をTwitterを使ってピックアップしてみたところ、作品数は限られてくるものの、一定のクオリティはしっかり保たれていることがわかった。早速、慎重かつ厳正に選出された6つのノミネート作品を時系列順に挙げていこう。

 

[1:サイバーパンク2077(ビデオゲーム)]

いきなりリアル世界の対象ではないけれど、このゲームが描く世界があまりにもすごかったので、堂々とノミネートされた。広大かつ緻密に構築されたナイトシティは、散歩しがいのあるすてきな街だった。

 

[2:津軽ダム]

あらゆる面で高クオリティのデザインが行き届いているダム。直前の豪雨でおなかいっぱいになったダムの姿を目の当たりにして、その役割の大きさを体感することができた。

 

[3:青函トンネル記念館]

昭和感が漂う展示施設は微妙な印象もあるが、なんと言っても竜飛斜坑線という地下140mまで行くケーブルカーに乗る坑道体験が素晴らしく、終始ワクワクしっぱなしだった。

 

[4:渋谷川]

暗渠と開渠の渋谷川を連続的に巡った。もはや原初の川の姿を見ることはかなわないが、表と裏の立場を緩やかに変えながら、都市に細長い余白をもたらす存在となっていることが確認できた。

 

[5:「新」小谷村砂防ダムツアー]

長野県の小谷村で開催された砂防施設ばかりをみっちり巡るという極めてディープなツアー。9年前に参加したツアーの新バージョン。驚愕の砂防ワールドをたっぷり体験することができた。

 

[6:アクティブリンク]

新札幌駅近くで行われている再開発の中核をなすデッキ「アクティブリンク」。楕円の内側はガラスのみで支柱がなく、橋脚もない。ディテールもシンプルに仕上がるように凝っていて、見応え十分だった。

 

以上が今年のノミネート作品である。どれも甲乙つけがたい対象なので、この中からひとつを選定する審査には大きなプレッシャーがかかる。いろんな想いを振り切って、いよいよ最終審査結果を発表しよう…。

 

私的ドボク大賞2022年は、『「新」小谷村砂防ダムツアー』だっ!!

 

2013年にも受賞している小谷村のツアーが再び選ばれたわけだが、コンテンツが異なるので全く問題ないと判断された。主催者である小谷村観光連盟の熱い想いがたっぷり載せられたツアープログラムは、秀逸なものだった。土砂災害多発地域を逆手に取って小谷村の魅力に転換するツアーの存在価値は、やはり貴重である。今後の発展への期待も込めて、大賞に選定させていただいた。

 

ということで、本年も細々と続けているこのブログをご覧くださりありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。

干潟の上の橋

吉野川の河口付近には、多様な生物相を育み水質浄化にも寄与する干潟がある。その上空を跨ぐように、市内の渋滞緩和を主目的とする「阿波しらさぎ大橋」が2012年に架けられた。その立地特性から干潟の環境に配慮した構造物とすることが求められ、斜張橋とケーブルトラス橋を掛け合わせた「ケーブルイグレット形式」という新たな構造形式が生み出された。

なにはともあれ、干潟への干渉を最小化すべく橋脚を設けないようにスパンを飛ばすわけだが、斜張橋のように桁を上から吊り上げるのではなく、桁下に水平ケーブルを配置して下から2箇所を支えている。そのケーブルは一段に限られ、斜張橋よりも低い主塔を介している。このことから、上空を飛ぶ鳥類の障害にならないようにしたというわけだ。さらに、橋の外に光を漏らさないように高欄内照明を採用しているなど、数多くの点で干潟を尊重する姿勢が伺える。また、少主鈑桁やサンドイッチ床版などの技術を取り入れることで、コスト縮減や省力化にも寄与しているのだろうね。

正直に白状すると、この橋にはあまり興味を持っていなかった。写真をチラ見した際、その見慣れないフォルムに対して、なんとなく貧相でゴチャゴチャしているように感じてしまったのだ。ところが徳島訪問の機会に「ついで」のつもりで見に行ったところ、そのイメージは大きく覆った。周辺環境やスケールを感じながら眺めることによって、いろいろ腑に落ちたのだ。やはり写真による自分の印象なんてアテにならないもんだし、実際に見る体験は本当に重要だね。またしても、大いに反省した。