長崎の出島表門橋は、とても微妙なバランスで成り立っている。
出島側は土地自体がほぼ国指定史跡の遺構なので、橋台を置くことができない。このため桁は、浮かび上がらんばかりに優しくタッチするだけになるよう、江戸町側の橋台をカウンターウェイトとするキャンチレバー構造になっている。うねうねした桁のフォルムは、死荷重時のモーメント図と活荷重時のモーメント図を重ね合わせた、なんとも言えない中途半端な図形がベースになっている。この桁は横方向に座屈防止のスティフナーが何層も重ねられているが、縦方向は高欄も含めて厚さ18mmの一枚の鋼板でできている。さらに、プラズマ切断機によって無数の穴が空けられ、すべて人の手によって研磨されている。
これまでにも個人的にローラン・ネイのチームが手がけた構造物をかなりたくさん見てきたが、この出島表門橋もネイのデザイン言語に満ち溢れているように感じた。それは、その場に合わせてふんわりカスタマイズされた結果、強烈な個性を得たものだ。予定調和的にカタログから選ぶようなアプローチではなく、地域や環境の条件を読み込んで課題を設定し、それを構造、造形、施工など観点を踏まえた最適解をシームレスに探るスタイル。その過程で生じる判断においては、構造面や製作面での合理性よりもユーザー体験を重視する傾向にある気がする。
専門家でも今までに目にしてこなかった外観となるため、言語化しにくく、評価もにしくく、何度も言っているように写真も撮りにくい。だからこそ、この橋が実際に日本で実現したという意義は、極めて大きいと思うな。日本の橋梁界で最も権威がある土木学会田中賞を受賞したのは、伊達ではないよね。