はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

大地の穴

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人類は穴を掘り続けてきた。断熱性や保温性のある住処として、生活で出た廃棄物を埋める場所として、死者を弔い大地に還す場所として。まだ科学と信仰が一体だった頃、莫大な利益や強力な軍事力につながる錬金術に魅せられ、採掘の技術や規模は拡大していった。そして、蒸気機関による動力により、鉄鉱石や石炭をはじめとする鉱物資源の大量採掘や大量輸送が実現し、産業革命という構造変革が一気に加速した。現在も大地の中に眠っているさまざまな鉱物資源を獲得するために、多様な方法で穴を掘り続けている。もちろん、できるだけ社会的コストがかからないように。そして、現代社会における僕らの日常がある。

上の写真は、カルスト地形で有名な秋吉台の南端にある、山口県美祢市の露天掘り石灰石鉱山。言うまでもなく石灰石は現代社会を支えるコンクリートの原料のひとつであり、日本国内で100%自給できる数少ない鉱物資源である。数億年前の生物が地球の一部となり、それを削り取らせてもらうことによって、我々の暮らしが成り立っているという現実。その莫大な自然の恩恵に見合う水準で、我々は文明や文化の質を高められているのかという問いを、正面から突きつけられた気分になる。