はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

特殊歩道

f:id:hachim:20200426172612j:plain

シュッとした白い二連アーチを持つ広島の太田川大橋は、その自転車歩行者道がものすごく特徴的で、これを渡ることによって橋梁景観の体験が豊かになる印象を持った。なにしろそのシークエンスがとても印象的なので。

写真奥の左岸側は、下流側の車道よりもわずかに低い位置にあり、太田川放水路の開放的な河口の風景を楽しめる。写真手前の右岸側は近接する住宅地の利用を考えて、上流側の堤防に接続している。桁下と橋脚の隙間を通るそのデッキは、ブラケットや吊り構造など、手の込んだ方法で支持されている。

いろいろ不思議なことになっているけれど、そもそもが高速道路に平行する一般国道の将来計画のために、取り外しが可能になっているんだそうな。極めてトリッキーな命題に対して統合的なデザインで解決されているので、凛とした強い個性が宿っているね。

それにしても、先日アップした対岸からの写真とは、天候が全く違う感じだな。 

世界の見方の拡張

f:id:hachim:20200422173550j:plain

文化は人と人との接触から生まれる。ところが現在、その関係を断つことを迫られ、他者に対して疑心暗鬼となり、得も言われぬ重苦しい空気があたりを覆っている。生命や経済の危機に際しては、文化という価値などはじめからなかったような雰囲気すらある。しかし、こんなときだからこそ、文化がもたらす重大な価値を僕らが守り伝え育むことは、後世の人々に対する責任だよな。

なんて大層なことを頭の片隅に置きながら、自分ができることはなんだろうと常に考えながら行動したい。それも、僕がこれまで取り組んできたことの延長線上で、できるだけ「面白い」方向で。たとえそれが些細なことであっても。

その機会は、まったくの偶然を装って、すでに訪れていた。昨年の末、6年近く前に出版した『ヨーロッパのドボクを見に行こう』の編集者から、面白そうな企画の連絡があったので積極的に本の宣伝をしてきなさいと命じられたのだ。そして、送っていただいた企画書を見ると、明確な内容はわからないが、とてつもなくワクワクするものだったので、ふたつ返事で承諾した。それがYoutubeのゲーム実況コンテンツ『○○のプロといくゲームさんぽ』である。

そのコンセプトは「いろんな人とゲームを「さんぽ」して、世界の見え方の違いっぷりを学ぶ修行」だ。もともと「なまぐさ坊主・なむ」さんが発案し実践していたフォーマットを、LINE株式会社のライブドアニュースがシリーズ化したものとのこと。対象のゲームの本筋とは少しずれた専門家をゲストとして呼び、その世界について語り合うというもの。その詳細はこのページの下に貼ったリンクを参照していただきたい。まあ実際にチラリとでも見れば、わかる人は一瞬でそのすごさが理解できると思う。たとえば、これとか。


【ゲームさんぽ/ゼルダの伝説】気象予報士・石原良純さんと『ブレス オブ ザ ワイルド』をやってみたら、天気の仕組みがよーーくわかった!

ゲーム×さんぽ×専門性というベクトルが異なる要素を掛け合わせることで、これまでの学習教材をあっさり凌駕する学習効率を生み出しているように感じる。おおよそ関係性が希薄だった、あるいは、相互に無視してきたかもしれない環境を、軽々と越境したこと自体にもたいへん大きな価値があるよね。しかも、リモートかつスピード感をもって展開することには、歴史に刻まれるパラダイムシフトが進行している世界において、極めて重要な意味があるはず。

僕はこれまで2つのコンテンツに参加した。「The Crew 2」というドライビングゲームでは橋やダムなどの土木構造物に着目し、不朽の名作をつくり直した「ファイナルファンタジー7リメイク」の5分間のトレーラーに現れた都市構造についてZoomで3時間も語り合った。僕がいったい何のプロなのかは謎のままだが、今後もいくつかのコンテンツに参加させていただけそうだ。

収録や公開を通して多くの刺激を激しく受けたことで、すでに自分のリアル業務にそのエッセンスを取り入れはじめている。さらにその勢いが余って、うっかりプレイステーションを買っちゃった。誤算だったのは、ファイナルファンタジーをぐりぐりプレイしていると酔ってしまうというとと、リモートワークの時間配分が上手くできずにいるのでプレイ時間が確保できないということかな。まあぼちぼちやるよ。


【ゲームさんぽ/The Crew2 】土木構造物に見るUbisoft様の“再現欲”(アメリカ東海岸編)


【ゲームさんぽ/The Crew2 】巨大で美しい!アメリカが世界に誇る名作ドボクたち(西海岸編)


【ゲームさんぽ/FF7リメイク】極悪都市! トレーラー映像(5分)に滲み出るミッドガルのヤバみ [都市鑑賞 前編]

youtu.be

大地の穴

f:id:hachim:20200419140031j:plain

人類は穴を掘り続けてきた。断熱性や保温性のある住処として、生活で出た廃棄物を埋める場所として、死者を弔い大地に還す場所として。まだ科学と信仰が一体だった頃、莫大な利益や強力な軍事力につながる錬金術に魅せられ、採掘の技術や規模は拡大していった。そして、蒸気機関による動力により、鉄鉱石や石炭をはじめとする鉱物資源の大量採掘や大量輸送が実現し、産業革命という構造変革が一気に加速した。現在も大地の中に眠っているさまざまな鉱物資源を獲得するために、多様な方法で穴を掘り続けている。もちろん、できるだけ社会的コストがかからないように。そして、現代社会における僕らの日常がある。

上の写真は、カルスト地形で有名な秋吉台の南端にある、山口県美祢市の露天掘り石灰石鉱山。言うまでもなく石灰石は現代社会を支えるコンクリートの原料のひとつであり、日本国内で100%自給できる数少ない鉱物資源である。数億年前の生物が地球の一部となり、それを削り取らせてもらうことによって、我々の暮らしが成り立っているという現実。その莫大な自然の恩恵に見合う水準で、我々は文明や文化の質を高められているのかという問いを、正面から突きつけられた気分になる。