はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

砂防堰堤とクマ

福島県を流れて阿武隈川に合流する「荒川」は、国土交通省による水質調査で「水質が最も良好な河川」に選ばれている。なんと、今年で14年連続とのこと。これは熊本の川辺川の18年連続に次いで2番目の記録らしい。そんな清流ではあるが、その名の通り昔からかなりの暴れ川であり、たびたび氾濫やら土石流やらの災害を引き起こしてきた歴史を持っている。

江戸時代に霞堤や水防林が整備され、明治時代には県による山腹工事が、大正時代には国による河川事業が、昭和もやはり国によって砂防事業が実施された。これらの治水砂防システム全体が土木学会選奨土木遺産に認定され、流域の砂防堰堤15基が登録有形文化財に登録されている。その中でも要となる施設が遊砂地を受け止める「地蔵原堰堤」(1925(大正14)年に一次竣工、1953(昭和28)年にほぼ現在の姿に補修)であり、その姿を拝むために現地を訪れた。

まずは情報収集のため、下流にある「荒川資料室」を訪れた。手作り感溢れるアットホームな展示施設であり、ご対応下さった係員の方がとても丁寧にいろいろ教えてくださった。各種パンフレットや砂防ダムカードもいただけたし。しかし、残念なことに右岸側に整備されている遊歩道は、クマの目撃情報のため立ち入り禁止になっているとのこと。えーせっかく見に来たのにーと残念がっていると、左岸側からのアプローチ方法を教えてくださった。十分気をつけてねと見送られ、少しだけ道に迷ったが、なんとか車で行けるところまで行き、最後は徒歩で地蔵原堰堤にアプローチすることができた。存在感のある堰堤を眺めてしばらく感慨にふけった後に、調子に乗って、およそ600m上流にある「大暗渠砂防堰堤」まで行くことにした。これは2007(平成19)年に完成した遊砂地の中にある現代の堰堤である。

結果的に、これが大きな判断ミスだった。うっそうとした水防林の中の雑草が生い茂る道を汗だくになりながら進み、堰堤まで残り30mほどのところで脇からガサガサという小さな音が聞こえた。いやいや冗談だよねと思って引き攣った笑みを浮かべながらスルーしかけたが、今度はやや大きな音でガサガサという音が。反射的に「なんかいる!」と大きな声を上げて、その方向に目をやると、雑草の隙間から黒いモフモフとした生物がささっと去って行く姿を確認してしまった。

いやまじで肝が冷えた。引き返すかどうか戸惑ったが、視界が開けるであろう堰堤まで行くことを決意し、ようやくたどり着いてびびりながら撮った写真が上のものである。まともに観察できなかったので、細かいことはあまり憶えていない。それから息を整え、大声を出しつつ足早に引き返した。途中から歌いながら行進することを思いつき、「ある日、森の中…」とはじめたところ、同行している妻から「しゃれになっていない」とたしなめられた。這々の体で車にたどり着き、クーラーをガンガンにかけながら荒川資料室に戻り、黒いモフモフの報告をした。すると、「あーそれはクマだね」というコメントをいただいた。

ということで、今後は熊鈴を常備することにした。みなさんも、砂防鑑賞の際にはお気をつけて。