はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

鉄道橋の教科書


一昨年ベルリンを訪問したとき(ベルリンのイメージトイレで食事復活した博物館など)に、なにかとお世話になった増渕基氏が翻訳を手がけた『鉄道橋のデザインガイド』が出版された。この本はドイツ橋梁界の重鎮であるヨルク・シュライヒが中心となって執筆し、日本のJRに相当するDB(ドイツ鉄道)が自ら編集したものの日本語版である。もともとは橋梁に関わる仕事をしている人向けではあるが、趣味として橋梁に接している人にもおすすめの書籍である。気楽な読み物とするには、ちょっとお高いけど。(それと少し気になるのは、「道路」の人はスルーしやすいタイトル。橋梁全般に共通する話なので、そこを取りこぼすとなると、極めてもったいないもんなあ。)
構造デザイン本としては、久しぶりにワクワクドキドキと興奮しながら読み進めてしまうものだった。僕もまだまだ若いんだなって勘違いしてしまうくらい。それこそ、フリッツ・レオンハルトの『ブリュッケン』以来の興奮だと思う。ドイツ橋梁エンジニアリングの思想がはっきりと表明されたことへの清々しさが感じられる。
この本を読むと、シュライヒがレオンハルトの思想をしっかり引き継いでいることが明確に読み取れる。こうした積み重ねが「文化」としてのエンジニアリングなんだろうなあ。特に僕が強く感じたのは、技術による創造のススメと、創造物の存在に対する責任感。さらにそれに基づいてDBが内省的に自己批判しちゃうというドイツ文化の懐の深さにもびっくりするね。ドイツの「一般的」なエンジニアは、この本をどのように受け止めているのかを知りたいな。
以下、個人的に胸熱な記述をメモしておく。

「インフラストラクチャーは、文化の中で位置づけられることにより、はじめて技術的にも機能的にも完全なものとなる」
「自然破壊への代償は、文化の創造ではじめて埋め合わせることができるのである」
「今日、我々は適切な答えを導くためにではなく、間違いを犯さないようにするために、多くの時間を浪費しているのである」
「橋の最も重要なデザイン要素は、場所性にある」
「今日対応したことが、明日には別の要件を生むのである」

それと、巻末の訳者あとがきが、日本のエンジニア(あるいはデザイナー)が最も理解すべき本書のメッセージなんだと思う。でも、増渕くんはやや慎重に(遠慮がちに)書いているような気がするのだが。著者じゃなくて訳者だからってことなんだろうけど。
しかしまあ、上記のように感激ポイントをピックアップしてみると、僕が土木の業界に入った頃と状況はそれほど変わっていない(むしろ悪化している?)ということなのかもね。表現こそ違えど、大きく頷くポイントは以前と同じだったりする。これはしっかり受け止めなければならないねえ。


鉄道橋のデザインガイド: ドイツ鉄道の美の設計哲学

鉄道橋のデザインガイド: ドイツ鉄道の美の設計哲学