はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

山の断面

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岐阜県の多治見市は古くからの陶磁器の産地である。特に中心市街地から南下した笠原町というエリアは、モザイクタイルが有名である。この地の出身の山内逸三氏が開発した磁器質タイルの新製法を地元企業に広め、戦後の急速な住宅開発の波に乗って圧倒的な国内シェアを得た。という知識を、多治見市モザイクタイルミュージアムの展示で得た。

このミュージアム、見ての通り、藤森照信氏が設計したものだ。外部空間も内部空間もディテールも仕上げも、どこを見てもワクワクとニヤニヤが止まらない。主題であるタイルの使用は展示空間以外は最小限に留められ、土の表現ががっつりなされている。スリバチ状の広場を含む正面は、原材料を取るために掘削された山を模しているという。

僕のような来訪者はよろこんで映える写真を撮りまくっているわけだが、やや寂しげな街の風景とのギャップも印象的だった。そんな街中をうろうろしながら、数名の地元の方にお話を伺うことができた。「ヘンな建物に最初はギョッとしたけど、すぐに慣れた」「昔は仕事が忙しかったけど、ずいぶん前に廃業した」「ミュージアムは毎日見ているけど、中に入ったことはない」「観光客はたくさん来るけど、地元にはなんにも関係ない」といったお話を伺っているうちに、1時間に1本程度しかない多治見駅行きのバスに乗り遅れそうになった。あぶないあぶない。