はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

チバ・シティ

「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。」

サイバーパンクの決定版として名高いウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』の冒頭には、こんな風に千葉港の情景が描かれている。この小説が書かれた80年代の前半、工業地帯はまさにこんなイメージだったのだろう。陰鬱で非衛生的で混沌とした世界。

現在の千葉港は、内陸の市街地よりもずっとすがすがしい。ポートタワーのそばの公園に行ってみると、わざとらしいほどに緑が豊かでクリーンだ。人も少ないし。

工場から排出されるガスや水は、各種規制と環境技術の進歩によって、かなり浄化されている。聞いた話では、印旛沼や手賀沼の普通には使えない汚れた水を、はるかにきれいな水にしてから海に戻しているとのこと。そんな水は周囲の海水温よりも少し高いので、魚がうようよ集まってくるとのこと。しかも、かつての漁業権はコンビナートの企業によって買い占められたことで、結果的に水産資源が手付かずになったことで、大物が多いそうだ。

人間が作り出した人間のための擬似的な自然が、工業地帯には見え隠れしているようだ。ガントリークレーンが動く様は、まるでアフリカのサバンナにたたずむキリンのよう。ちょっと言い過ぎかね。

ちなみに、わが家のTVは最近地デジにしたので、「空きチャンネルの色」を体験できなくなった。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)