はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

バックヤードの展示

この夏のオランダ旅行では、ずっと体験してみたかったロッテルダムの「デポ・ボイマンス・ファン・ベーニンゲン」を訪問した。2021年にオープンしたMVRDVの設計による「見せる収蔵庫」だ。周囲の風景を反射するビカビカの巨大お椀という異様な外観からしてダッチ味が溢れだしているわけだが、その内部でこれまで体験したことがないほどのワクワク感を堪能することができた。

そもそも既存の施設として、ボイマンスさんとファン・ベーニンゲンさんが収集した大量のコレクションを核とする「ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館」がある。1935年につくられたという建物は、2019年から2026年までの予定で大規模改修を行っている。それに伴い、15万点を超えるという作品群をすべて引っ越して、隣地に「デポ」がつくられたわけだ。倉庫として美術品を収蔵するだけでなく、管理、保護、復元、研究など、それらを含む美術館の機能をすべて「展示」するという、なんとも意欲的な施設である。

お椀の底部から建物に入り、予約をしていなかったために少し手間取りつつも、中央部のエントランスへ。その頭上には、いきなりテンションMAXにぶち上がる吹き抜け空間があった。斜めに入り組んだ階段、反射と透過が過剰に繰り返されるガラス面、仮設感が漂う展示パネルや鉄骨のフレーム、音を立てながらせわしなく移動する全面ガラス張りの剥き出しエレベーター、展示品の移動やライティングの調整などを淡々と行うスタッフ、あちこちにちりばめられたさまざまなジャンルの美術作品。とにかく情報量が多すぎて、困惑しながらもついつい笑顔になってしまう多次元的な空間が縦方向に伸びている。

階段を登っていくと、吹き抜けの周囲には分厚いガラスの大きな窓がいくつもある。脇にあるスイッチを押すと向こう側のライトが一定時間点灯し、作品群が納められた倉庫の内部をのぞき見ることができる。それぞれの作品群は一見脈絡がないようにも見えるのだが、なんとなく統一感がありそうな気もする。おそらくサイズやカタチなどの形態条件とか、マテリアル由来の温度や湿度などの環境条件とか、つまり保管の観点から分類されているのだろう。一般的な美術鑑賞の切り口とは異なる面白さがクセになる。

修復作業などを行うのであろうスタッフルームや、講演会やワークショップなどを行うのだろうイベントスペースも、ガラス窓を通じて眺めることができる。さらに、ちゃんとした「作品展示」のエリアも複数箇所にしっかり用意されており、カオス的展示体験との対比が強烈な印象として残る。そして最上階に至ると、そこにはオシャレなカフェと、違和感満載の深い森のような屋上庭園が。ここで現代社会における美術展示のありようを提示しようとする彼らの本気度を、あらためて確認することができる。

デポでは美術館の裏側を表側に出すために、徹底して「すべてをオープンにする」姿勢が貫かれている。そこで得られる鑑賞体験には、流動的でカオスな成分が大量に含まれている。それらが良質なセレンディピティをもたらすことが、はっきり意識できる。自分の身体が更新されるような感覚に陥った。自分が土木景観や都市鑑賞についてモヤモヤと取り組んできたことに対して、別の角度から鮮やかな解答例を示していただけたという気分。このバックヤード体験は万人向けではないかもしれないが、一般常識から少しズレたなにかに興味を持っている人に対しては、まじでおすすめできるな。