はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ドナドナ城

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上海訪問の大きな目的のひとつは、コンクリートのただならぬ重厚感を漂わせながら、オシャレな店舗やクリエイティブ関連のオフィスなどが入っている1933老場坊という施設を尋ねることだった。ここは何と、租界時代にイギリス人建築家によってつくられた、当時世界でも先進的な設備を持つ食肉解体施設のリノベーションというかコンバージョンなんだそうな。数年前にこの存在を知り、機会があれば行きたいと思っていたので、今回の旅で満を持して乗り込んだわけだ。

施設全体の外周は方形の建物で囲まれ、その内面には廊下が巡らされている。中央にある円筒形の施設とは数多くの渡り廊下によって接続され、屠殺が行われたという中心部に導かれている。そこを歩き回ると、まるで抜け出せない迷宮のような印象に襲われた。それは、そもそも動線が複雑に入り組んでいること、直線の延長が短い通路が多いために全体的に見通しが悪いこと、それらの通路は狭隘なものが多いこと、高さがある頑丈な高欄で囲まれていることなどに起因しているように思えた。おそらく、大量の家畜を効率よく捌く配置として、人と家畜の動線を分離しつつ、牛が暴れることで生じる事故を減らそうとする意図があるのだろう。牛動線や食肉生産に合理的な施設ってのは、かくも特別な空間になるのかと驚愕した。

それにしても、コンクリートの造形や装飾の力の入れ方はすごい。通気性が高いであろうアール・デコの雰囲気をまとった幾何学模様のファサード、傘状に上部が広がる6角形の支柱、やたらとカクカクした各所の形態など。どこまでが美しさを意図した造形なのかはわからないが、とにかく尋常ではない迫力をおなかいっぱい堪能できる。しばらく牛肉は遠慮したくなるけれど。上海旅行の際には行程に組み込むことをつよくオススメするよ。