ドイツアルプスの麓の街、ケンプテンにある2010年に竣工した水力発電所を見に行ってきた。地元の建築設計事務所のベッカー・アーキテクトの設計。たいへんありがたいことに、ケンプテンに住む友人の取り計らいで、施設のガイドツアーにも参加させていただくことができた。
発電施設とは思えない、見られることを強く意識した装い。粗いテクスチャーを持つコンクリートのカバーは、各種施設を有機的な造形でつないでいる。外側の見た目だけでなく、見学者のテンションを高める内部空間も手が込んでいる。
造形コンセプトは、水流によって磨かれた岩とのこと。なるほど、全体のフォルムからディテールやテクスチャーに至るまで、しっかりコントロールされている。そして意外なほど、周辺景観にもマッチしている。
しかし、施設の基本的な配置は水力発電のための技術要件で決定する部分が多いので、表層に造形物の上物をかぶせたに過ぎないのでは、という第一印象はぬぐえない。実際に、一部分はなんの機能も受け持っていないばかりか、災害時には外すようになっているそうだ。
残念なのは、施設全体を眺められる視点場がないこと。これは致命的。造形物は全体も眺められて、はじめて評価の対象になるもんな。なお、上流に架かる鋼トラスで補強した木トラス橋からは見えそうなのだが、長らく補修工事が行われているようで、残念ながら現在も立入禁止が続いている。
なお、数年前に見た記事(ArchDaily|Hydro-electric Powerstation / becker architekten)の写真は、おそらく完成当時の真っ白に輝く艶かしい姿であり、ものすごく強いインパクトがあった。粗い表面仕上げが手伝って、現在はかなり黒ずんでいる。おそらく意図的だとは思うが、5年後10年後にどんな姿になっているかを確かめたい。最初が一番よかったね、なんてことにはなってほしくないもんな。
<参照>スパン35メートルからのデザイン・ブログ|土木デザインのマイルストーン - ケンプテンの水力発電所 その1、スパン35メートルからのデザイン・ブログ|土木デザインのマイルストーン - ケンプテンの水力発電所 その2