はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

整っていない大階段

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福島県相馬市の伝承鎮魂祈念館に向かう最中、防潮堤に張り付いている大きな階段が目に止まった。その存在感と同時に強い違和感を抱きつつ、ザワザワしながら通り過ぎた。

この階段のすぐ先にある祈念館と慰霊碑を訪問し、震災前と震災直後の風景写真や映像を見ることで、この地域で起きたことをイメージするように努めた。その後に階段に引き返し、目の前に広がる原釜尾浜海水浴場と、被災後にかさ上げされて防災緑地の整備が進められているエリアを眺めて、先ほど写真で見たかつての集落を頭の中で再構成した。

そして、大階段の昇降を体験した。どうやらこの階段は、昨年の夏に再開した海水浴場からすみやかに高台の避難場所へ移動するための施設のようだ。おそらく防潮堤と道路が平行ではないのだろう。階段工の平面形状はカーブしながら変化しており、4つのブロックで蹴上げ高や踊り場の位置などが異なるという奇妙な現象が起こっている。高欄や手すりなどの作工物からも、そのズレっぷりが確認できる。

この場所のシンボルとなり得る規模の大階段なのに、日常の風景はさておき緊急時の利用のみを考えた構造物。なるほど、緊急の整備というのは落ち着いて考えれば誰もが配慮する思考すら奪ってしまうのだなあと、あらためて感じた。 

ちなみに海辺にある伝承鎮魂祈念館には持ち主不明の写真がたくさん残されており、その一部が展示されていた。それをいくつか拝見しただけでも、すっかり揺さぶられた。