はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

ファシストの家


ジュゼッペ・テラーニというイタリアのモダニズム建築家が設計したカサ・デル・ファッショという建物が、スイスとの国境付近のコモにある。1932年にムッソリーニファシスト党本部として建てられ、現在は国境警備隊が使っている。まあ権威を象徴するのが使命のような建物なわけで、威圧感はあまりないけど、極めて端正で精緻で美的な秩序感にあふれている。
それはプロポーションをとことんまで追求していることから生まれているんだろうね。平面は1:1、立面は1:2、開口部などは1:√2になっているとのこと。幾何学的なゲームというノリだね。だからと言って、冷淡でつまらないものになっているわけではない。4面とも異なるファサードだったり、それぞれ左右非対称だったり、豊かなディテールの表情であったりと、かなり変化に富んでいるので見ていてまったく飽きない。単純なルールを徹底しているのに、複雑な形態をまったく破綻なく解いているのは見事というほかはない。
そんなことを考えながら感激していると、どんどん興奮してきて中も見たくなってくるのが人情ってもんだ。しばらく正面でグズグズしていたら、通用門から人の出入りが多少あるのが確認できた。そこで、相手は国家権力だけど、思い切って突撃してみた。もちろんすぐさま警備員に止められたわけだが、そこは食い下がって「日本からこのために来たんだ、1分だけ、お願い!」などといい加減ながらも勢いのある英語でアピールしたら、その警備員はややしばらく考えた後に上司に掛け合ってくれて、なんとか中に入れてもらえた。グラッツェ!!
もちろん内部空間もすばらしかった。中央部分はガラスブロックを通して自然光が降り注ぐ空間になっていて、秩序感や透明感があってすごく素敵。ディテールまで神経が行き届いた丁寧な仕事に感動した。わずかな時間ではあったけど、十分な満足感とともに警備員にお礼を言うと、かすかに微笑んでくれた。イタリアいい国じゃん。