
昨日、ロベール・マイヤールというスイスの高名な構造エンジニアについて捉え直す機会があった。鉄筋コンクリート構造を探究し、あのサルギナトーベル橋を設計したエンジニアだ。過去にマイヤールのアーチ橋をいくつも見て回ったので、その写真をピックアップするとともに、すべての橋を網羅していると思われる写真集を見返した。
マイヤールのアーチ橋は基本的に2種類しかない。それは、サルギナトーベル橋に代表される3ヒンジアーチの群と、シュバントバッハ橋に代表される薄い板材が下から桁をサポートする補剛アーチの群。そのことを知っているつもりでいたのだが、あらためて感嘆した。もちろん架橋環境はそれぞれ異なるのに、外観のバリエーションはない。しかしよくよく眺めると、微妙な差異があることがわかる。
これをどう受け止めたらいいのだろうか。その環境に合わせて統合的に設計する感覚は希薄だったと捉えてもよさそうだ。そして、橋単体の構造に興味が集中していたであろうことは、特筆に値する。橋を架けるたびに実験的に現象を観察し、次の橋で改良を加えていったのだろう。そうやって少しずつ技術を高めていき、本質を見極めていったのだろう。まるで人間国宝の職人や、山に籠もる修行僧のように。
その姿勢はエンジニアとしての崇高なモデルとも言え、後世には多くの人に価値を見出され、市民にも尊敬される存在になっている。しかし、同時代の他者からはその姿勢が疎まれており、ずいぶん不遇な環境におかれていたようだ。もしかすると、偏屈で頑固な性格だったのかも知れないな。
上の写真はトゥーア川橋という鉄筋コンクリート3ヒンジアーチ橋。サルギナトーベル橋から3年後の1933年に供用している。やはり橋本体はよく似ているが、部分を見ると結構な違いが確認できる。地形は大きく違うので、印象はずいぶん違うよね。