はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

都市に埋め込まれた川

おしゃれなショップやカフェが建ち並び、渋谷と原宿を緩いカーブが連なって結んでいる「キャットストリート」へ、少し前に所用があって行ってきた。案の定、キラキラした雰囲気に気圧されて不要に緊張してしまい、どのお店にも立ち寄らず足早に通り過ぎたわけだが。

この通りはファッションの発信地らしいが、そんなことよりも「暗渠」であることが僕にとっては重要だ。キャットストリートの正式名称は「旧渋谷川遊歩道路」であり、渋谷川に蓋をして下水道幹線となった暗渠であることが明示されている。やんわりとしたカーブは実に川っぽいし、護岸のパラペットがそのままの状態で露出している箇所も多い。下水道の境界標もちゃんと発見できた。

かつて田園地帯をのどかに流れていた渋谷川も、周辺地域の急速な市街化に伴い、生活排水が川に流れ込むことで非衛生的な環境が形成され、迷惑施設として人を遠ざけるようになっていったのだろう。渋谷川のこの区間は1960年代に暗渠化され、住宅街の中に溶け込んだ。1980年代から区の事業として一帯の整備が進められながら、現在の街並みが形成されていったという。一時期は街の裏だった川が、ファッションの発信地として脚光を浴びるように変化したのだ。

暗渠を歩く体験は、少し観点を変えると、時間軸を行き来しながら水の流れをトレースするという特別なものになるよね。地形を読み取って水の流れを想像し、かつての人々の活動を思い浮かべながら、現在の風景を重ね合わせる。そうした行為は、隠されている川を復権させていると捉えることもできるね。