はちまドボク

何かからはみ出した、もうひとつの風景

風土

アアルトの家

フィンランドを代表する建築家でありデザイナーのアルヴァ・アアルトは、建築、家具、日用品など、数々の著名な作品を残している。僕も含めてデザインに関わる者は、その足跡にさまざまな場面で何度も出くわす。せっかくヘルシンキに行くということで、郊外…

国宝橋

たいへんめでたいことに、先日、熊本県山都町に架かる国内最大級の石造アーチ橋である「通潤橋」が、国の文化審議会で国宝に指定するよう答申された。橋という土木構造物が国宝に指定されるのは、はじめてのことだという。そうか、これまで橋は国の宝として…

建物を受け入れたため池

大阪の隣町、松原市の文化施設が集まるエリアの一角に、ブルータルな建物が水面に浮かぶ池がある。この建物は「読書の森」と称される松原市民松原図書館である。外壁は傾斜のある面で構成され、その不定型な姿は不思議なことに威圧感を感じさせない。赤みを…

自然と人為の境界

気仙沼市の本吉地区を流れる沖ノ田川の河口部。2019年にはじめて訪問して衝撃を受けたが、その時はまだ工事中だったため、冷たい小雨が降る中で、あらためて見に行ってきた。 高さ約10mの堤防は、コンクリートでがっちり構築されている。もちろん川を遡上す…

里山ファンタジー

「多治見市モザイクタイルミュージアム」を設計した藤森照信氏による「ラコリーナ近江八幡」を訪れたのは、およそ1年半前。この施設をざっくり言うと、お菓子屋さんである「たねやグループ」による、お菓子と里山のイメージが織りなす世界観を堪能できるテ…

山の断面

岐阜県の多治見市は古くからの陶磁器の産地である。特に中心市街地から南下した笠原町というエリアは、モザイクタイルが有名である。この地の出身の山内逸三氏が開発した磁器質タイルの新製法を地元企業に広め、戦後の急速な住宅開発の波に乗って圧倒的な国…

自慢の建物

仕事を絡めた一週間の壮大な周遊旅行を、愛媛の松山を起点として予定していたのだが、台風10号の影響で大幅に計画変更せざるを得なくなった。飛行機のチケットは変更不可だったし、あれこれ再検討する心のゆとりもなかったため、同じ都市に約一週間も滞在す…

自然現象と人間活動の交錯点

東日本大震災の発災翌日である2011年3月12日の朝、長野県北部地震によって写真右上の斜面が崩壊し、大量の土砂が積雪を巻き込みながら、写真左側にある国道353号を飲み込んだ。その緊急対策としてつくられたのが、鋼製セル工法による主堤体を有するこのトヤ…

近江の姉弟

これまでヴォーリズと言う名前は、大阪の大丸心斎橋店本館の建て替えの話題で耳にしていたが、どんな人物なのかを調べたことはなく、戦前の外国人建築家なんだろうという認識を出ることはなかった。ところが、滋賀への出張時にたまたま宿をとった近江八幡の…

熱海らしさ

全く知らない町でも、意図的に自分の感度を上げて1時間くらいフラフラ歩き回っていると、なんとなくその町の特性が体に染みこんでくる気がする。次第に発見が増えていくというか解像感が増すというか、ともかくその街の風景の見え方がクリアになっていく感覚…

オーガニック人工磯

下北半島の木野部(きのっぷ)海岸。海に囲まれた島国である日本の海岸線によくある風光明媚な磯と砂浜の風景だなあと思って、うっかりスルーしてしまいそうになる。ところが、写真の中央部にある磯は、かつてこの地域で伝統的に行われていた「築磯」を近自…

青森のオランダ

八戸港の一部をなす新井田川の河口を豪快に跨ぐ八戸大橋は、おそらくこの都市の成り立ちを体感できる適地だろう。橋上をレンタカーで通過した際にそう感じたのだが、わざわざ車を降りて立ち寄るかどうかずいぶん悩んだ。なにしろ滞在時間も限られている状況…

隙間を埋めたい衝動

誰でも隙間があれば埋めたくなる気分を味わったことがあるだろう。なにかに依存しようとするしょうもない心理状態だ。僕は今、猛烈にそんな状態。なんのことかというと、リリースしたばかりの「はちまドボク地図」の隙間を埋めたい衝動に駆られている。どう…

階段井戸

3月にインドに行った際に、たいへん幸運なことに、ニューデリーの高層ビルが建ち並ぶエリアにひょっこり存在する階段井戸「アグラーセン・キ・バオリ」に連れて行っていただいた。地表の風景とのコントラストが凄まじいこの階段井戸からは、インドの構築環境…

失った宝物

10年前の今日は、解体へまっしぐらだった蘇我のJFEスチール第5高炉を撮っていた。懐かしいなあ。もう、すっかり跡形もなくなってしまったね。 当時、これを残したいという声は散発的に上がっていたものの、実現にはほど遠い空気だったことを憶えている。今だ…

信仰心の芽生え

立山カルデラへの潜入体験って、本当に貴重である。スケジュールを確保して現地に乗り込んでも、雨が降るとそれだけで立ち入り禁止になるわけで。幸運なことに僕は過去に二度ほどカルデラ潜入に成功したのだが、つい先日は雨でNGになってしまった。 どん底の…

ヤンバルの公共建築

ここ数日における名護市長選のニュースに、名護市庁舎がチラチラ映っていた。昨年の夏に沖縄に行ったときに見に行ったので、ちょっとした親近感が湧いてきた。 格子状の全体構成、風通しを徹底した細部、コンクリートを活かした造形、かっこいいねえ。沖縄の…

水平垂直中心

9月のブータン訪問の最終日には、重要施設である県庁兼寺院の「パロ・ゾン」を訪問した。この巨大な元軍事施設は、もともとあった建物が20世紀初頭に焼失して再建されたものだという。映画「リトル・ブッダ」のロケ地にもなったとのこと。 その荘厳さにはた…

清正への挑戦

熊本地震の直前に放送されたブラタモリに登場した「鼻ぐり井手」を見に行った。1608(慶長13)年、新田開発のために加藤清正がつくったとされる農業用水路の施設であり、穴の空いたフライングバットレスのような壁が連続しているものだ。水路を流れる水に渦…

穏やかな謎の国

5年前のスイス訪問時にもリヒテンシュタイン公国へ行った。しかし、さらっと通過しただけであり、写真すら一枚も撮っていなかったので、もしかすると本当は行っていないんじゃないかなどと思うようになった。このため夏のアルプスドボクツアーでは、ちゃんと…

地域の材料

つい先日、宇都宮を散歩する機会があったので、すぐ近くに産地がある「大谷石」の使われ方を気にしながら歩いてみた。これまで何度か大谷資料館などの採掘場跡地を訪問していたので、倉や塀などの使用例が極めて多いことはある程度知っていたんだけど、思い…

都市内サーフィン

海岸から500kmほど離れた内陸都市のミュンヘンにあるエングリッシャーガルテン(イギリス庭園)の一角に、なぜかサーファーが生息しているという情報を、何年か前にテレビか何かで得ていた。アルプス訪問の際にそのことを思い出し、本当にそんなバカバカしい…

大人の質感

チューリッヒ中央駅はもともと大きなターミナル駅であるが、2014年頃(未確認)には通過式の路線が地下につくられたようだ。それ以前にも改修に次ぐ改修が行われてきたんだろうね、順次拡張してきた痕跡が随所に見られる。 ところが、見た目や利用に関して、…

手段の目的化

韓国の埋立地に架けられた斜張橋。曲線の柱で構成された斜めに傾くタワーを介して、橋台をアンカーとしながら張られたケーブルが水面上の桁を引っ張り上げている。そして、その桁の上を別の高架橋が遠慮なく跨いでいる。高架橋の橋脚の向きや形状を見ると、…

地域の代表的な風景

「地域を代表する風景」ってのは、郷土史のフィルターを経て古典化し、一般的な価値を獲得したものだろう。そういうものでないと、観光パンフレットに掲載しにくいだろうし。それ自体はそれほど疑ってないのだけど、個人的な地域のイメージとなると話は少々…

どこまでも人工空間での生活

アムステルダムが面するアイ湖(IJmeer)は、もともとゾイデル海(Zuiderzee)だった水面を、締め切り大堤防・アフスライトダイク(Afsluitdijk)によって淡水化した「人造湖」だ。その中に、アムステルダムの土地不足を解消すべく「人工島」を構築し、そこ…

日本のオランダ

今年の大型連休は、秋田に滞在した。かつて自分が設計に関わっていた橋梁や道路を巡るとともに、この地に根を生やした大学の同期に会うためだ。各所で素晴らしい体験ができたので、すっかり秋田ファンになってしまった。 その際、いつか訪れたいなあと思って…

でっぱり物件

オランダの建築家集団MVRDVによる設計で、55歳以上の年齢制限がある高齢者用集合住宅「オクラホマ」。1997年に建てられた。 いくらなんでもそりゃ出っ張らせすぎだよと思いつつ、実際に見てみると、あまりにも豪快に出っ張っていて本当にびっくりする。なん…

富山のインフラツーリズム

昨年度の後半にお手伝いさせていただいた富山における「インフラツーリズム」が、富山県と土木学会中部支部の共同主催により、いよいよ実現することとなった。富山県土木部のみなさまを中心とした関係者の方々の熱意とご尽力に、心から敬意を表したい。 「と…

テトラ愛

富山地方鉄道本線の中滑川(なかなめりかわ)駅前には衝撃的なオブジェが設置されている。上端には水が噴き出す仕掛けが設置され、全体が白く塗られ、脚部にはそれぞれホタルイカらしきファンシーなイラストが施されたテトラポッドが鎮座しているのだ。 この…